ロングレで殺伐・ヤンデレものを創作するならお題は/一つずつ順番に教えてあげる/逃げないように縛り付けて/その手で終わらせて  です
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1.一つずつ順番に教えてあげる

この世の中には己の思い通りにならないものの方が多く存在するし、またその存在に時として腹を立ててしまうのも生きていれば良くある事だ。だが毎度毎度腹を立てても仕方がないし、そんな労力を費やすのも馬鹿馬鹿しいと思ってしまうから、ロンクーはいちいち過敏に反応しない様にと心掛けている。…心掛けているつもりだ。
しかし、慣れない事に首を突っ込み、所詮は敵わないと分かっていたのに誘惑に負けてしまった自分に対して腹も立つし、何より自分を引き込んだ癖に涼しい顔をして夜に姿を消すグレゴに苦々しい思いを抱いていたのは事実だった。

「遊びに本気になるお前が悪ぃんだろー?」
「………」

やっている事は所謂男女の睦事と然程変わらないが、この男に甘い言葉など期待するだけ無駄だと分かっているし、そもそもそんな期待をした試しが無いロンクーはそれでもグレゴのこの言葉には閉口せざるを得ないし眉を顰めてしまう。グレゴの口角を上げる事に繋がるとも分かっていても、だ。

「なーに期待してんだか知らねえけどよ、先もねえ関係ずるずる続けて楽しいかぁ?」
「…全裸で言われても、な」
「なーんだよ、服着て欲しいのかよ」
「いや…、別に」

明かりを消そうが消すまいがどちらでも構わないとグレゴは言うので暗闇の中で行為に及んだ事は無いのだが、毎回こんな風に小馬鹿にした様な表情しか見せてくれた事が無いので、それもロンクーには腹立たしい。しかし挑発に乗ればどんどんとこちらがドツボに嵌っていくと分かっているから、矢張り苦い顔をしたまま沈黙してしまう。そんなロンクーの顎を、グレゴは指先で撫でた。馬鹿にしたり挑発したりする時の癖だ。

「一つずつ順番に教えてやろうじゃねえの。
 恋焦がれんのも、それで辛くなんのも、絶望すんのも、憎む事も」
「…憎まれたい、のか」
「なーんも知らねえ青臭ぇ若造が堕ちてくの見んのが好きなだけだぜ」

喉の奥で低く笑ったグレゴは、心底おかしそうに、そしてロンクーを見下した目で見上げた。その事に歯噛みしたロンクーは、しかし何か言い返しても結局は言い負かされてしまうと分かっていたものだから、何も言わなかった代わりに憎まれ口を叩くその口を自分のそれで塞いだ。夜はまだ、始まったばかりだった。



2.逃げないように縛り付けて

体を隠したシーツの中は熱が篭って暑い。夜は比較的涼しい地域であってもそういう事をやれば自然と暑く感じるものであるし、また汗をかくのも当然の事だ。自分の下で体を横たえているグレゴは暑がりで汗かきなものだから、眉間に皺を寄せて鬱陶しそうに閉じた瞼の上を流れる汗を大きな掌で拭っている。顔を背けてじっと下半身に齎される鈍痛が混ざった快感に耐えている彼の表情はこういう関係になった今ではロンクーにとって欲情を膨らませるものでしかない。
女嫌いであるが故に女性経験が無く、恋愛経験も皆無であるロンクーをからかって体の関係を結んだのはグレゴだ。それはそうなのだが彼にとって所詮は遊びであるし、セックスは単なる小遣い稼ぎでしかない。最初こそ戸惑うロンクーを面白がって寝たグレゴは、その次からはきっちりと金を請求する様になった。別に自分は寝なくても困らないとはっきりと言って。

「…ぅ、っく…」

圧迫感があるのか時折苦しそうな声を漏らして耐えるグレゴの体には数多くの傷跡が刻まれている。その中に、傷跡とも思えない何か痣の様なものが右の手首に一直線に走っていて、ロンクーはいつもこの痣を不思議に思っていた。腕を取り、その痣に口付けても、気色悪ぃからやめろといつも振り払われて裏拳を額にお見舞いされてしまう。

「あーのなあ…いい加減、腕輪の痕とか、…はぁ…、ほっとけっつーの…」
「…腕輪…?」
「そ、いう…プレイが、好きな奴も、…んん…っ、世の中にゃ、居る、んだよ…っ」
「………」

緩やかな挿入を繰り返しながらグレゴの右腕を取ってまじまじとその痣を見ていると、彼は矢張り鬱陶しそうにロンクーの手を振り払って不機嫌そうに言った。目の前の若造がピンときてない顔をしていたからなのか、小さく舌打ちしたグレゴは右腕を頭の上に上げて寝台のヘッドボードの支柱に手首を近付けて見せる。そこで漸くロンクーはグレゴが何を言いたかったのかを理解した。
つまり、彼を雇ったのか買ったのかは知らないが、そういう趣味を持った相手から寝台に腕を繋げられたという意味なのだろう。場合によっては寝台に縛り付けられたのかも知れない。体格の良い男を組み敷くという行為は征服欲を掻き立てるものであるし、実際ロンクーにもそういう側面があったりもする。背丈は殆ど変わらないとは言え、自分より体格が良いグレゴを自分の下に組み敷くのは、ロンクーの中の濁った欲というものを満たしてくれた。…だから、この男から逃げられないのだという事もまた、ロンクーには分かっていた。

「っあ、はっ…! が、っつく、なっ!痛ぇだろこの…っ」
「お前を、縛り付けるつもりは無い、が…、
 お前に縛り付けられている、自覚は、あるぞ」
「…ばっ…かじゃねえ、のかあっ?!
 だーれがお前なんぞ、…っああぁ!」

腰の動きを速くすれば文句を言われ、挙句憎まれ口を叩かれそうになったので深く沈めると、喉を反らしてグレゴが大きく反応した。露わになった喉笛が妙に白く見えて、そこに歯を立てたくなる。何度でもこの男を征服してやりたくなる。

「…自覚、しているんだろう?
 この体で、縛り付けている事くらい」
「勝手に、縛られて、文句言ってんじゃ…ねえ…っ!」

グレゴにはロンクーを縛り付けるつもりなど欠片も無いだろうし、そんな趣味も無いだろう。ただ、自分より年下の男が堕落していく様を眺めたいだけなのだ。それが縛り付けているなどと、微塵も思っていないに違いない。ロンクーにはそれが何とも言えず腹立たしくて、グレゴの太い手首を押さえ付けると彼の体に覆い被さって唇を塞いだ。見えない鎖が、お互いの手首を縛り付けている様な気がしていた。



3.その手で終わらせて

「覚めない悪夢の中で生き続ける気分はどうだ」

静寂の中響いた、感情の篭っていない冷えた声がまだ熱の下がらない体の中に沈んでいき、グレゴは僅かに眉間に皺を寄せた。聞かれて気分の良いものではない質問を投げてきたその黒髪の頭に適当に手に掴んだ枕を投げつける。

「その質問、そっくりそのまま返してやらあ」

気怠げに、しかし思い切り不機嫌そうにそう答え、後頭部を掻きながら上体を起こす。鈍痛が走る腰や筋肉が張った内股が彼の顔を一層苦いものにさせたが、質問を投げたロンクーはそんな表情に怯む事は無い。見慣れている為だ。
今、2人が生きている現実は、お互いの中では「覚めない悪夢」と認識されていると言っても過言ではない。グレゴは弟を、ロンクーは幼馴染を、目の前で奪われたというとっておきの悪夢の続きをもうずっと長い事見続けてきた。そろそろうんざりもしているし、終わらせたいという思いもある。
覚めない夢は無い。しかし、この悪夢から目を覚ます術は無い。…否、あるにはあるのだ。2人共、その方法は知っている。ただ、それを実行するつもりが無かっただけの事で。

「それとも、お前が覚ましてくれんのか?」

体に纏わり付くシーツを鬱陶しそうに払いながらそう言ったグレゴに、今度はロンクーが顔を顰める。が、あんな質問をしておいてそういう顔をするとか馬鹿か、という思いしかグレゴは抱けなかった。

「もうそろそろ目ぇ覚ましてえところだぜ。暇潰しと金儲けの為にお前に抱かれんのも飽きた」
「………」
「やってみろよ。その手で」

馬鹿にする様な目でロンクーを見たグレゴは、次の瞬間頬を襲った痛みと耳に響いた乾いた音を、どこか遠くの出来事の様に感じていたのだが、掴まれた胸倉に圧迫感をまた眉を顰めた。

「痛ぇぞ」
「お前はどうしてそういつも全部投げ出そうとする」
「面倒臭ぇからに決まってんだろ」
「…っ」

何か言いたかったのに何も言えなくなったのか、短い舌打ちの後に首を両手で掴まれて締めあげられ、グレゴは思わず口元で僅かに笑ってしまった。昔も今も、相変わらず挑発に乗りやすい若造だ。

「終わらせてみせろよ、お前の、その、手で」

心底見下した目でロンクーの黒い瞳に映る自分を見ながら、グレゴは指先で彼の顎をゆるりと撫でる。その影が妙に生々しく壁に映し出されていた事も、泣きそうな顔をしたロンクーの事も気が付いていたけれども、全て面倒になっていた彼は気が付かないふりをして目を閉じた。

まだこの悪夢は、覚めそうに、ない。