※大変ぬるいですが初夜話で性行為のシーンを含みます。R-18


結婚式などというものは新郎新婦が互いへの愛を誓った後は仲間内から冷やかされ飲めや歌えやの宴会に雪崩れ込むだけであり、朝から支度をさせられていたグレゴとノノは早々に着替えさせられ天幕へと追いやられた。元より2人共衣類を汚す事には長けているので借り物を汚さない様にするのは疲れるので素直に礼を言って着替えたが、「疲れているだろう、後はゆっくり休め」とユーリから言われてはいどうも有難うと言ってさっさと眠る、などという運びになる程、2人は子供ではなかった。ただ、ノノが結婚をした男女がそういう事をするのだと知っているのかどうか、グレゴには分からない。千年も生きているのだから知らないとは思わないが、しかし聞くのも憚られる。ただ、気に掛かる事があるのも事実であり、知っているだろうという予測はついている。どうしたもんかね、と短い髪の頭をガリガリと掻きながら、小ぢんまりとした天幕の中に入ると既に設置されてある簡易ベッドが目についた。
「あー…ところでノノ」
「なあにー?」
「今日から寝るのは一緒のベッドだが構わねぇか」
「うん、だってノノはおよめさんだもん。
 およめさんはだんなさんといっしょに寝るんでしょ?」
「あ、それは知ってんのな…」
「えっへん!ノノはグレゴより年上だもんね!」
それはそうなんだけど、ときっちりと天幕の入り口を閉じたグレゴはさてどうしたものかと思案する。プロポーズをして指輪を渡して夫婦になった、それは良い。仲間内から祝福されて挙式もして誓いも立てた、それも良い。同じ天幕の同じ寝台で寝る、まあ、それも良しとしよう。問題はその先だ。抱いて良いものなのか否か、そこが分からない。
ノノの外見は、というか体格は、お世辞にも大人びているとは言えない。そんな彼女に性欲が沸くという事は不健全であるのかも知れないが、しかしグレゴとて男であるので好いた女は抱きたい。だがその了承を取るにも尋ねなければならない訳で、どうやって尋ねるか、それを考えていたのだが、難しい顔をしているグレゴをよそにノノは無邪気に寝台に飛び乗った。
「わあー、ふっかふかだ!いいお天気だったから、シーツよく乾いたのかなあ」
「……そうだなー」
…男の前で無防備に寝台に寝そべるのは如何なものかと思うのだが、既に夫婦である以上は注意すれば逆におかしな事になってしまうだろう。彼は変に緊張して寝台に寝かせるより余程良いかも知れないなどと思いつつ寝台の端に座り、靴を脱いでいると、視線を感じたのでノノに目を遣ると、目が合った彼女は耳の先を僅かに赤くしてからグレゴの隣に座り、同じ様に靴を脱いだ。
「…あと1つ、聞いておきてぇ事があるんだけどよ」
「なあに?」
「こういう事すんの、初めてか」
靴を脱ぐノノの横顔を見ながらその赤くなった耳先を指で抓むと、一気に体が緊張したのが触れた指先からでも分かった。だがグレゴにはノノが羞恥で体を緊張させた訳ではないという事も、不本意であるが分かっていた。
「…ううん」
「…そーかぁ」
その問いに、静かにゆっくりと、そして俯き加減でノノが答える。やっぱりなあ、とグレゴは思ったし、またそれを言わせてしまった事に対してすまなくも思った。
ミラの大樹での戦闘の際、抱き上げたノノが暴れたので思わず怒鳴ってしまった時に、彼女が酷く怯えた顔をした事をグレゴは覚えている。あれは成人男性に怒鳴られた事に対して怯えたのだろうが、それとはまた別の怯えが見え隠れしていた事にグレゴは気付いていた。多分、否、今のノノの返答で確信してしまったが、彼女は無理矢理に犯された事があるのだ。昔居た恋人ではなく、また別の男に。それが1人であるのか、複数であるのか、グレゴには分からないし尋ねようとも思わない。そういう事は思い出させる必要は無いのだ。だから彼は、敢えてにかっと笑って言った。
「奇遇だなぁ、俺も初めてじゃねえんだ」
「………っ、」
グレゴのその言葉にノノは最初きょとんとしたが、意味を飲み込むと吹き出し、笑った。声を上げて笑ったのだ。
「グレゴが初めてだったらおかしいよー」
「そーかぁ?俺の年でも女を知らねえって奴も居るぜー?」
「でもグレゴがしたこと無いのはおかしいもん」
「なーんでだよ、まあ、あるから優しーく出来るけどなー?」
「………ほんと?」
「ああ、だから安心しろ。あんたが怖がる事は絶対しねぇから」
「…うん」
優しく、を極力強調してグレゴが言うと、ノノは幾分か体の強張りを解いて紫水晶の瞳で彼を見上げた。深く頷いて肯定し、ゆっくりと肩を抱き寄せても怯えられなかった事に、グレゴは安堵する。今日ほど女の扱いに慣れていて良かったと思った日は無いと本気で思っていた。何事も経験しておくものだという妙な頷きはノノにばれない様にやった。
「キスは?」
「…あるよ」
「前の俺と?」
「うん」
「今の俺は、あんたとするのは初めてだからな?」
「…う、ん…」
覚えもないし知らない男の話題を出すのも妙ではあるが、300年程前に居たというノノの恋人であった男はグレゴの元の名と同じだったらしいし食の嗜好やちょっとした仕草がそっくりであるそうで、だから彼は「前の俺」と言った。だがグレゴは本当にその男に覚えが無いし記憶が無いので、子供くさいとは思ったが区別をして貰う為にわざと確認したけれども、ノノにはその悋気は気取られなかったらしく、軽く唇が触れた時にはぎゅっと目を閉じられてしまった。生娘ではないがこういう事には慣れていないらしい。式の時に誓いのキスとやらをさせられたが、グレゴはノノの口にではなくて額にしたので正真正銘初めての口付けだった。額にした事は大いに顰蹙を買ったけれども、初物は人が居ねえとこでゆっくり食わせろよなーとグレゴが言うとそれもそうだと男達は真顔で頷いた。許して貰えたらしい。
「…お酒くさーい」
「そりゃー、酒飲んだからなあ」
「酔ってる?」
「いやー、天幕入った時点で醒めた。
 明日の朝は酒臭くねぇキスするから、今日は勘弁な?」
「うん」
暫くノノのふっくらとした唇を堪能した後、音を立てて吸い上げ離すと、彼女は照れを誤魔化す様に口を尖らせた。元から酒が好きなグレゴであるからそれこそ色んな相手から杯に酒を注がれて飲んだのだが、ノノに言った様に天幕に入ると一気に酔いが醒めてしまった。だから今の彼は一応素面なのである。酒の勢いで抱く、のでは断じて無い。
「…明かり消すか?」
「ううん、お顔見えた方がいい」
「そうか。…無理はすんなよー?嫌な時は嫌ってちゃんと言えよ」
「うん」
ランタンの明かりを消すか否かを問えば、ノノは何の躊躇いも無く首を横に振った。暗い方が嫌な事を思い出すのかも知れないし、グレゴだって自分の行為によってノノの記憶の中の暴漢を思い出されてしまうのは不本意この上ないので明るいままの方が良い。ただ、寒いかも知れないので毛布は被った。
覆い被さると怖がるかと思っていたが、案外ノノは平気そうな顔をしていた。というか、笑ってはいけないのだが笑ってしまいそうで堪えている様な、そんな顔をしていて、グレゴも笑うなよと苦笑しながら彼女の頬を指で突く。そして平気そうであったから、上着だけ脱いだ。
「…いっぱいケガしてるね」
「んー?まあ、な」
グレゴは暑がりの癖に手首まできっちりと覆われる服を普段から着ているが、それは傷だらけの体を他人に見せない様にする為だった。若い時分から、それこそ少年と呼んでも差し支えない年の頃から剣を握っているグレゴの体には多くの傷跡が残っていて、中には生死の境を彷徨った程の傷もあった。それほど大きく深い傷跡を、ノノは小さな手で触れ、指先で撫でる。肩の傷、胸の傷、腕の傷…大きく残る傷跡に触れるノノの表情が段々と曇っていくのを見てグレゴはその手を優しく取り、柔らかな掌に軽く口付けた。
「……ぁ、」
掌に何度か口付けた後、指を啄んでから手首の内側にも口付ける。空いた手でワンピースの上からゆっくりと胸に触れると、何故かノノが困った様な顔をした。
「…どうしたー?」
「あの…あのね、…おっぱいちっちゃくてごめんね?」
「…はあ?」
「だ、だって、グレゴもおっぱいおっきい方が好きでしょ?」
「……… あ、あー…」
なるほど、どうやらノノは自分の胸の膨らみが小さい事を気にしていたらしい。子供の様な体型である事は間違いないし、確かに胸が大きいとは言えないが、謝られるとは思わなかったグレゴは思わず間抜けな声を出してしまった。
「いやー…うん、まあ、成長が楽しみだなー、で良いんじゃねえの?」
「100年かかっちゃうかもしれないよ?」
「うーん、100年は待てねえからこのままで良いかなー」
「あっ、」
そんなに自分は他の女の胸を見ていたのだろうかと思いながら自分の手に収まるサイズのノノの胸をやんわりと揉むと、彼女は僅かに体を強張らせたが逃げようとはしなかった為に続ける事にした。胸は大きさじゃなくて感度だよなあなどとグレゴが余計な事をしみじみ言うと、ノノは顔を赤くしながらも苦笑しておじさーん、と言った。怖がらせはしていないらしい事に、何となく安堵する。
最近のノノの服はセルジュが調達してきてくれたり、リズのお下がりであったりするのだが、今日はセルジュが買ってきてくれたワンピースに着替えた様で、脱がしやすいと言えば脱がしやすい。ノノの表情を窺いながらそっと手をスカートの中に入れると、びくりと震わせたけれども拒絶はしなかった。
「手ぇ荒れてて悪ぃなあ。痛くねえか?」
「…へーき…」
グレゴの手はいつでも荒れている。剣や斧を握り、戦っているのだから当たり前ではあるのだが、その手で柔らかい女の肌を愛撫するのは何となく罪悪感がある。以前抱いた娼婦がお客さんの手ぇ荒れてるねえ、働きモンの手だけどちょっと痛いねと苦笑いされた事を覚えているので尚更だった。しかしノノは微かに笑ってその心遣いに礼を言う様にまた肩の傷を指先で撫でた。少し擽ったかったが、今度は止めなかった。その代わりに胸ではなくてノノの脇腹に手を滑らせると、僅かにくぐもった声が彼女の喉から漏れた。
「………」
その箇所を丁寧に指先や掌で愛撫しながらゆっくりと衣服を捲ると、見覚えのある傷跡が存在を主張する様に刻まれていて、グレゴは自然と顔を顰めてしまった。以前ノノが自分を庇った時に出来た傷であったから、余計に苦い顔になってしまう。その傷跡に唇を落とし、啄み、舐めると、ノノの体がその度に反応して可愛らしい声が頭上から降ってきた。
「ゃ、…あっ、…あぁ、…く、くすぐったいよお」
「擽ったいだけかあ?」
「っひゃ!あ…っぁ、…んん…」
身を捩ってその唇の愛撫から逃れようとするノノの体をがっちりと捕まえ、手を伸ばしてワンピースに隠れた小さな胸の膨らみに触れる。隆起した胸の突起は彼女が紛れもなく快感を得ていると教えてくれていたので指の腹を少し舐めて唾液を含ませてから抓んで捏ねると、ノノは逃げる素振りは見せなくなったが体を縮こまらせて震わせた。怖いのだろうかと心配になり、脇腹への愛撫を止めて顔を覗きこむとぎゅうと抱き着かれたので、空いた手で肩を抱いて閉じられた瞼や額、頬、唇に軽く口付ける。そうすると、ノノの体から強張りが緩んだ。緊張なのか怯えなのか分からない内は急く事を避けたい。
「…グレゴどきどきしてるね」
「んー?そりゃー、惚れた女抱いてんだから、俺だってどきどきするさ」
「そっか。ノノとおんなじだね」
「そーそー、同じだからそう緊張すんな」
「ふひゃっ…」
体を寄せると鼓動が伝わったらしく、ノノが掌を左胸にあててきたので、グレゴは肩を竦めて苦笑した。そして彼女の尖った耳先を軽く噛んで吸い上げながら小さな乳房を優しく揉むと、掌に伝わる鼓動が一層速くなったのが分かる。体を少しだけ浮かせてワンピースをずり上げさせ、僅かに汗が滲む胸にキスをしたら、お返しのつもりなのかノノが頭に軽くキスをしてくれたので、思わずグレゴはちょっと笑ってしまった。行為の最中にこんなに笑みを零した事が無かったものだから、彼は何となく不思議な気分になる。
「あっ、あ、…ふにゅ、…う、ああ」
するりと手を下半身に伸ばして弾力のある内腿に触れる。グレゴはびく、と肩を跳ねさせたノノの顔を覗き込んで怯えてない事を確認してから遠慮なく毛布の中に潜り込み、再度彼女の脇腹の傷跡を唇で軽く食んだ。
「ひゃっ、あっ、あぁっ、」
熱が籠った毛布の中は暑かったのだが、最中はそんなものなので、いくら暑がりなグレゴでもそこは我慢するし何の不満も無い。暗いのも構わず柔らかな内腿を抱えて舌を這わせて吸い上げ、僅かに鬱血の痕を残していく。ドーマの臓物で脇腹の怪我を負ってからノノはきちんと素肌を隠す様な服を着用する様になっているので、流石に内腿も衣類で隠れる。ただ、ノノは襟元が開いているものを好んで着る為、首筋には痕を付ける事は躊躇われた。
「う、うぅ、…っあぁ、あっ、あっ、」
薄布の上から敏感なそこに口付ける。唇に伝わる熱は単に毛布の中が暑いからなのか、それともそこが熱いのか、グレゴには分かっていたけれども気が付かないふりをしてそろりと舌を這わせた。唾液だけではない体液で湿った下着からは、女のにおいがした。
ぢゅ、と音を立てて吸えば、下着の内側からじわりと体液が浸透していく。余り汚しても怒られてしまう気がしたので指先で軽くずらして素肌に直接口付けると、今度こそノノが小さな悲鳴を上げて体を強張らせた。体付きは子供であっても矢張り確実に大人へと変化はしているらしく薄く生えた恥毛がグレゴの唇を擽る。
「ぅあっ、ああ、あっ、…あ、ひぃん…っ」
蜜の様な粘度の体液を舌に含ませた唾液と混ぜる様に襞を舐め上げれば、気持ち良いからなのか何なのか、ノノは身を捩る様にしてその愛撫から逃れようとした。反応は大人の女のそれと変わらない。妙な感心をしたグレゴは細い腰に腕を回して動きを封じ、熱い愛液が溢れる秘部を吸い上げれば、小さな肉芽が顔を出した。
「っきゃ、ああぁっ、あ、あっ、やあぁ」
そこを口に含んで吸って本当に軽く歯を立てれば、ノノの背が弓なりに反ってまた悲鳴が聞こえた。痛みではなくて快感を得ているという事は指や下着を濡らす愛液の量で分かる。汗ではないその体液の潮の味が口の中に広がり、襞から垂れる蜜を舌で掬い上げて飲み下すと、ノノの呼吸の中に泣き声が混ざっている事に気が付いて、グレゴは口元を手で拭いながら毛布から顔を出し、彼女を覗きこんだ。
「悪ぃ悪ぃ、嫌だったか?」
「う、うぅ、ふぇ、」
「ああ、すまんすまん。ちょーっと休憩しような」
ぽろぽろと涙を零すノノが首に抱き付いてきたので、背を擦りながら目尻に唇を寄せて涙を吸い取る。密着した体は汗で湿って熱を帯びており、ノノを抱いたままグレゴも寝台に寝そべった。中年だのおじさんだのと揶揄される彼でも性欲というものは普通に持っているし、女を買いに行く事だって日常茶飯事であったのだが、ヴァルム大陸に来てからというもの殆ど買った事が無く、故に今のグレゴには正直な所そこまで余裕は無い。が、女の体に無茶をする事は不本意であるし、何よりマムクートと言っても成熟していないだろうノノの体に無体を働きたくはなかった。
「さっきも言ったけど、嫌な時は嫌だってちゃーんと言えよ。
 すぐやめるから」
「い、いや…じゃないの… …は、はずかしかったから…」
「…あー、なるほどね… んじゃ、このまんまやろうかなー」
「え… …っあ、あぁ、ふにゅ…っ」
随分落ち着いた様子になってきたノノに再度言うと、彼女は頬を赤らめて首を振った。確かに口での奉仕をされるには恥ずかしい箇所ではあるだろう。納得したグレゴは手をノノの下半身にまた落とすと、下着の中に遠慮無く入れた。筋に指を滑らせて愛液を指に絡め肉芽を指の腹で優しく擦ればノノが胸板に顔を埋めてきたので、何となく体を少しだけ遠ざけてしまった。寄られるのが嫌なのではなく、汗でにおうのではないかと思って申し訳なくなったからだ。だがノノはそれに対して恨めしそうな顔をして涙が堪った目で見上げ、離した分また体を寄せてきたものだから、グレゴはそれ以上体を離すのは止めた。
「…息吐いてみ?」
「ふぇ? ……は、あぁ、あ…っ」
言われるがままに素直に息を吐いて貰えたので、十分に蜜で濡らされた指を1本、ゆっくりと秘部に埋めていく。爪は切ってあるから内壁を傷付ける事は無い筈だが、ノノの小さな体に見合う程の狭さのそこは埋めた指を締め付けてきた。グレゴの指がそれなりに太い事もあってか、尚の事内壁の肉が指に吸い付いてくる様な気がして、彼は思わず眉を顰めてしまう。何十年、何百年前の事かは知らないが、指1本だけでも辛そうに息を上げているノノを犯した男が居ると思うと無性に腹が立ったからだ。無理矢理に捩じ込んだという事は想像に難くなく、その時彼女は酷く泣いたのだろう事もまた、容易に想像出来た。
「…痛ぇか?」
「……へーき…っ」
「頼むから無茶すんなよ、嘘は吐かねえでくれ」
「ほ、ほんとに、へーき… …っあ、や、やぁ、そ、そこだめ、だめっ!」
余りの締め付けを懸念したグレゴの問いに、矢張りノノは首を振る。恐らく無理をしているのだろうと判断したグレゴは挿入に慣れていない女は膣よりも肉芽を弄られる方が感じて善がる事を知っているので、愛液で濡れそぼった親指の腹で肉芽を擦るとノノは初めて拒絶の意味で首を振って叫んだ。だが、それも快感についていけずに口に出た言葉であるという事もグレゴには分かっていたので止めはしなかった。膣の内壁が指を千切るのではないかと思う程に更に狭くなり、指に柔らかい肉が吸い付く。
「あっ、あっ、や、ぁ、あ…―――…っ!」
ぬめる肉芽を抓んで擦ると、ノノが体を痙攣させながら声にならない悲鳴を上げた。小さな体がびくびくと細かく震える度、グレゴの指をきゅうと締め付ける。その締め付けをもう少し味わっていたかったのだが、彼はゆっくりと指を引き抜くと、荒い息を繰り返すノノの額に軽くキスして抱き締め、背を擦った。絶頂させてやれた事に、何となく安堵していた。
「…大丈夫か?」
「う…ん…」
「そうか。んじゃー、今日はここまでな」
「………え?」
抱いた肩がまだぴくぴくと痙攣していて、快感の余韻が残っている事を教えてくれている。グレゴはその反応に満足する様に溜息を吐いた。しかし、彼が言った言葉に目を丸くしたノノは何度か瞬きをした後、不思議そうにグレゴを見上げた。
「…でも、グレゴ、何もしてないよ?」
「何回も色んなとこにキスしただろぉ?」
「そうじゃなくて!ノノ知ってるもん、どういう事するのかくらい、知ってるもん!」
「あー、うん、でも今日はここまでなー」
「な、ん、…何でぇ…?」
犯された経験があるらしいノノは、性行為がどういうものであるのかを知っている。だからグレゴが「今日はここまで」と言った事が全く理解出来ない様であったし、一気に表情を不安なものに変えさせてしまった。僅かに青褪めている。
「ノノの体がこどもだから?そ、そんな気持ちになれない…?」
「いや、そうじゃなくてな…」
「ノノ、こどもじゃないもん!痛いのもガマンできるし、グレゴだったら怖くないもん!だからっ… …!」
ノノはノノなりに必死なのだろう、縋る様に捲し立てて行為の先を促そうとしてきたのだが、その声は途中で掻き消された。言葉を遮る様にグレゴが口付けたからだ。宥める様に唇を食み、背を擦ってノノの興奮を鎮める。その際に彼女の体に下半身を押し付けると、びく、と僅かに体が強張った事が分かった。
「取り敢えず落ち着け、別にあんたに魅力がねえとか思ってねぇから。
 思ってたらこうはならねえよなあ」
「…じゃあ、何でぇ…?」
「ゆっくり俺に慣れてって欲しいんだよ、急ぐ必要ねぇだろ。
 それに、やっぱ怖ぇんだろー?」
男の体というものは女の体よりも余程素直なものだし、反応が顕著だ。グレゴだって例外ではないから、既に窮屈さを感じている下半身を寛げたいし先程指で味わった溶けそうな程の熱の中に埋めてしまいたい。我慢も限界に近かった。だが、あれ程までに狭い内部に無理矢理に埋める気にはなれなかったし、何より怯えを見え隠れさせるノノに無理強いはしたくなかった。何とか残っている理性でぎりぎり押し留まれている。
「…グレゴはこわくないもん…」
「嘘吐け、さっき震えてたのはどちら様だ。
 …思い出して怖ぇか」
「………」
「あー、泣くな泣くな。悪かった、嫌な事思い出させちまったな。
 詫びに俺の内緒話、教えてやるよ」
「…ないしょ…?」
ノノにとって恐怖の記憶でしかない事を思い出させた罪悪感もある、女に先を促させた申し訳なさもある、そして誰でもない彼女にだけは言っておかなければならない事を伝える為に、グレゴは半ば諦める様な小さな溜息を吐いた。彼には誰にも言っていない、気を許した人間―例えばバジーリオなどがそれにあたるが―にさえも黙っていた事がある。
「俺の父親はそりゃーもうろくでなしでな。
 俺が8才だか9才だかの時に、酒買う金がねぇからって、端金で俺を変態に売ったんだよ。
 …あんたと同じさ、痛ぇし怖ぇ思いをした」
「………」
何の躊躇いも無くグレゴが口にしたその告白に、ノノは驚いた様に目を見開いた。彼女には親の記憶が無いものだから、親というものは自分にとって良い存在であると信じて疑っていない。そんなノノにろくでなしの親の事を言うのは憚られたけれども、グレゴは正直に言った。
グレゴが幼少時代にまだ存命であった父親は、とにかくろくでもない男だった。殴る蹴るは当たり前であったし、食事もろくに与えて貰えなかったし、挙句の果てにどこの者かも知れない様な少年偏愛の中年に売られ、散々に犯された。まだ10にも満たぬ子供であったグレゴは自分より体の大きな大人に組み敷かれ、良いように弄ばれ、余りに怖くて泣けば殴られた。悪夢の様な夜を過ごして朝になったと同時に父親の元へ逃げ帰ると、今度からは自分で客をとって来いなどと言われた。それでどれだけの金が稼げるのか、その時のグレゴには分からなかったが、体の弱かった弟の事を思うと嫌だとは言えなくて、それ以来グレゴは弟が賊に殺されるまで体を売り続けた。
そんな経験をしてきたものだから、尚の事ノノが無理矢理に犯されたのだろうという事に腹が立つのも事実だった。自分より体も大きく力の強い者に組み敷かれ押さえ付けられ、乱暴に犯される事は屈辱よりも恐怖しか与えられない。グレゴが何度もノノが怯えていないか、怖がっていないかを確認したのは、そこにある。
「…内緒な?」
「………う、ん…」
「なーんで泣くんだよ。泣く事ぁねえだろー?」
「ご、ごめんね、ごめんね…」
「あんたはなーんも悪くねぇぞ?」
「で、でも、…」
謝りながら涙を零したノノに苦笑しながら指で涙を拭うと、彼女はグレゴの大きな体に抱き着いて謝った。自分にとって思い出して嫌な事、怖い事を、グレゴにも言わせてしまった事に対する謝罪なのだろう。しかしグレゴにとってはあの当時の経験は確かに嫌な思い出ではあるが、対価として得た金は結果的に弟を守る事に繋がっていたから、誰彼構わず喋る事ではないけれども謝られる事ではないとは思っている。
「…な。だから、一緒に慣れていこうぜー?あんたに怖がられるのは嫌だし、それに」
「?」
「あんたを俺でいっぱいにしてやんのさ。
 そんで、俺をあんたでいっぱいにしてくれよ。な?」
「…うん。約束ね」
荒れた手でノノの頬を包み、額同士を付けてグレゴが微かに笑うと、ノノもやっと小さく笑った。その事にグレゴも安堵し、再度唇を重ねるだけの口付けをした。ノノの唇は、もう震えてはいなかった。
温かく柔らかい彼女の体は、これからも長い時間を過ごしていく。その長い時間の内、どれだけ自分と体を重ねて貰えるのか、グレゴには分からない。ノノにとっては本当に一瞬の事であろうし、今のチキと同じ年頃になればもう自分の事など忘れているかも知れない。人は忘却して生きる生き物であるし、恐らくマムクートもそうだろうと思うからだ。それでも、その一瞬だけでも自分で満たせるであれば、無意味ではないとグレゴは思う。彼はぎゅっと自分を抱き締めてくれたノノの体を抱き締め返し、そのままお互いの体を毛布で覆った。今日はもう何もしないという意思表示をノノも理解してくれた様で、小さくおやすみと言ってから大人しくその体勢のまま目を閉じた。グレゴは余り眠れそうにはなかったのだが、このまま朝まで彼女の寝顔を見ながらぼうっとする事に決めた。職業柄、どうしても熟睡出来る事が少ない彼にとってこうした休息の時間というものは贅沢且つ貴重なもので、そんな貴重な時間をこんな風に過ごせる事にどうしようもない程の幸福を感じていた。