※最初から最後までベッドシーンです。R-18


熱い吐息が耳元にかかり、グレゴは思わずくぐもった声を喉の奥で殺した。耳はそこそこ弱いと知られている所為かいつも指や唇で嬲られてしまい、その度我慢する様な反応をしてしまう。声を出してしまえば楽なのかも知れないが、だらしなく喘ぐのは彼の中の男としてのプライドが許さなかった。
唾液が含まれた舌が耳朶を這い、唇で挟まれた後に軽く歯で甘噛みされるとぞわ、と背筋が戦慄いて、食い縛った歯の間から呻きにも似た吐息が漏れる。じゅ、と音を立てて吸われ、その口から逃れようと身を捩ると、案外しっかりとした腕が寝台と背中の間に滑り込んできて動きを封じられた。
「…っ…、しつけぇ、ぞ」
余りにも執拗に耳ばかり攻められるので短く抗議の声を上げると顔の真横にあった黒い頭が漸く離れたのだが、少し不満そうな表情を浮かべながらも微かに汗が滲んだ額に唇を落としてきた。こんなおっさんにこんな事して何が楽しいんだか、と何度思ったかグレゴはもう数えていない。
「…弱い所は重点的に愛撫しろとお前が言ったんだろう」
「女相手を前提に話してたんだから当たり前だろー?
 俺相手にやらなくて良いっつーの」
「何故だ」
「時間が掛かるから」
「…セックスは時間を掛けるもの、なのだろう?」
「俺ぁお前とのセックスに時間とか掛けたくね、…っあぁ、」
不服そうに抗議してきた男が――ロンクーが言った言葉に率直な返答をすれば、シーツが擦れる音と共に足の間を割って彼の膝が滑り、股間を刺激してきたので、思わず声が漏れた。その声に熱が含まれてしまっていて、グレゴは知らず顰めっ面になってしまう。否、男なら刺激されれば大抵誰でも反応してしまう箇所ではあるからおかしな事でも恥じる事でも無いけれども、何と言うか、ロンクーからの刺激に反応してしまった事が癪だ。
「ん……ふ、…んん…」
口が僅かに開いてしまった所を逃される筈も無く、唇が覆い被さってきて無理矢理舌で歯列を抉じ開けられる。深く口付けようとしつこく舌を絡めたがるのは、多分昼間にロンクーの腰が砕けるまでやった口付けのせいだ。だから自業自得と言えばそうなのだが、それを認めるのは悔しいし何より生意気だと思えて、グレゴは仕返しに先程ロンクーにされた様に膝で彼の股間をぐり、と擦った。
「んん、…っく、ぅ…」
性的な刺激に未だに慣れていないロンクーはそれだけで腰が引けるし、体を小刻みに震わせる。が、口を離さなかったのは意外だった。てっきりすぐに離すかと思っていたグレゴは感心しながら、それでも膝で股間をぐいぐいと押すのは止めなかった。
「……っ…」
やがて業を煮やしたのか、背中に回していた腕を引き抜くと、まだ脱いでいない服の上から胸板を撫でられて僅かにグレゴの足が止まる。下半身への中途半端な愛撫の後であれば布が肌を擦る感触に対して多少ではあるが敏感になり、まさぐる手の動きを肌が追ってしまう。鍛えられた体の盛り上がった胸板に齎される布擦れは確実に快感を与えていた。それが腹立たしい。
一生をお前に貢ぐ、と言われたところである程度束縛しようとするロンクーであるから、自由を好むグレゴには良い迷惑であるし鬱陶しい。だから最後まで足掻いて拒否したというのに、結局はこの様だ。金は貰っているし仕事と割り切ってしまえば良い事だと分かっていても、矢張り面倒だと思ってしまうのは生来の性格なのか相手がロンクーであるからなのか、それはグレゴには判断がつきかねた。
「は、…っふ、…っぅう、」
漸く口を解放された後に耳朶の下から首筋を通ってゆっくりと舌が這う。それに合わせる様に服の上から探り当てられた乳首を指先で抓まれ、ぎくりと体が跳ねた。まだ完全には立っていないとは言え、服の上からであろうが抓まれ愛撫されると快感の声が漏れ出てしまい、苦い顔になる。もう面倒臭くなって股間を刺激するのも止めてしまった。
手首まで隠れる割には胸元が開いた服を普段から着ている所為で首元に吸い付かれると痕が残って後々面倒臭い、と何度言ってもロンクーは噛み跡や鬱血の痕をそこに作る。そこが一番吸い付きやすく噛みやすいというのは分かるけれどもいい加減学習して欲しい。今日も無闇に音を立てながら吸い上げようとしていたから軽く頭を叩くと漸く気が付いたのか、すまない、と短い謝罪の後に手が服の中に侵入してきた。そしてそのままたくし上げられた服の下に隠されていたグレゴの体に存在する数多くの傷を見て、ロンクーはまた僅かに眉を顰めた。傭兵なのだから体に傷など山程あってもおかしくないと分かっているだろうに、毎回こうやって沈痛な顔をするロンクーに対してもうグレゴは何も言う気は無い。そこまで気を遣う相手でもないからだ。
「…ぁ、……んぁ、…」
膨らんだ乳首を舐められて少し背が反り、それが舐る事をもっと要求している様な姿になるのではないかと思った途端に自己嫌悪に陥り、グレゴは思い切り顔を枕に埋めた。セックスは冷静に考えてはいけないと分かっていても、己の痴態をよりによってこの男に晒しているという事に腹が立つ。ロンクーはそんなグレゴの内心など知る由も無いので、空いた手で胸板の体毛を弄びながら乳首への愛撫を続けていた。
露になった肌が寝台の側に設置されたサイドボードの上のランタンで照らされ、その様を見て微かに目尻を赤くしている顔が枕に埋まった視界の隅に見えて、俺の体見て欲情するとかほんとこいつおかしいとグレゴはいつも思う。最初の時は男の裸体、しかもごつい自分の裸体は萎えるかも知れないが明かりが無いと分かりづらいだろうと思ってそのままにさせておいたが、大分慣れたであろう頃を見計らって明かり消して良いぞと言うとこのままが良いと言われ、見えないと反応が分からねえからかなと呑気に思っていたら告白なんだか求婚なんだか知らないが指輪を渡そうとしてきたのだ。なるほどこいつは俺が好きだから明かり消したがらなかったのかと妙な納得をしてしまったけれども勿論その求婚は断った。しかし何度断ってもめげないし諦めなかった上、最終的には公開プロポーズなどしてきたのだから必死過ぎる。
「…ぁっ、…」
適度に切り揃えられた爪で膨らんだ乳首を引っ掻かれて微かな痛みが走る。ただ、軽い痛みであるなら愛撫の範疇だとグレゴも思っているしそう言った事もあるので文句は言えない。言えないが、ちょっと気持ち良いと思ってしまった自分が嫌だ。否、これが買った女に施されているのならそうは思わないのだけれども。
「ふ、…ぅ、……んん、」
首元までたくし上げられた上着の部分に熱が籠り、さりとて自分で脱ぐのも負けな気がしてそのままにしているのだが、服の下にするりと忍び込んできた指先が冷たくて心地好い。その指先の感触を追うのは嫌だが、冷たさを楽しむくらいは良いだろう。汗が滲んだ鎖骨を撫でられた後に服をずり上げられまたそこを軽く噛まれてちくりとした痛みが走ったが、それ以上に股間に落ちてきた手の感触に腰が強張った。
「は…あぁ、…っ、…この…っ」
「ん…っ」
掌でズボンの上から揉みしだかれているだけでも快感が襲ってくるというのに、また耳を口に含まれてしまったので今度は手でロンクーの股間を掴んだ。緩急をつけながら揉み、擦ると、耳にダイレクトに掛かる息が段々と荒くなっていく。途切れ途切れの息が耳に当たってくすぐったいやら感じるやらで身を捩ってしまった。
「…我慢出来なくなる、から、よせ」
そろそろ限界が近いのか、股間を弄っていたグレゴの手を掴んでそう言ったロンクーの顔にも汗が浮かんでいて、暑いなら脱げば良いのになと思ったが黙っていた。フェリアで暮らしていたロンクーもグレゴと同じか、それ以上に暑がりだが、たまにこうやって衣類を完全には脱がずに行為に及ぶ。敵襲がいつあるのか分からないのだから気を抜くのは良くないという事はグレゴの方が分かっているけれども、セックスの時にそんな気を回されても困る。性交によって汚れた衣服で立ち回るのもいかがなものかと思うからだ。
「良く言うぜ、いつも我慢出来ねえで突っ込む癖によぉ」
「…痛い思いをさせていたなら謝る」
「もっと謝れ、普通は突っ込むとこじゃねえんだぞ」
「…すまない」
枕から顔を起こしてグレゴが文句を言うと、ロンクーも嫌われたくないという想いと本来なら男を受け入れる器官ではない箇所を使用している事への罪悪感が滲み出ている様な表情で謝ってきた。本来は排泄の為の孔を性交に使う事自体おかしいという事はロンクーでも流石に分かっている様であるし、またある程度挿入時の痛みも想像出来るであろうから、事に及んだ翌日は随分と気を遣ってくれる。気遣うくらいならやるなとグレゴは思うが、金を貰っているので文句は封じている。
「こーんな凶悪なちんこ毎回突っ込まれる俺の身にもなれよなー」
「うっ…く、」
掴まれている手を振り解いて再度股間を押せばロンクーが呻き声を漏らしたが、構わずズボンの中に手を入れて下帯ごと握る。その手に微かに湿った感触が確認出来て、グレゴは微妙な顔付きになった。
「…なーんでお前、俺相手に我慢汁出るんだよ…」
「で、出たらいけないのか」
「いけねえ訳じゃねえけどさー…変な奴…」
掌についたぬめる液体は下帯を汚したロンクーの先走りの体液で、刺激を与えれば確かに男は勃起もすれば先走りも出るものであるけれどもどこからどう見ても男にしか見えない、しかもごつい体付きの自分に対して出るのはおかしいとグレゴは思う。人の性癖はそれぞれだし自由だけれども、心の底から変な奴だという感想しか持てない。
掌が汚れたのは仕方ないし拭うのも面倒臭いのでそのまま指先で下帯の上からペニスを撫でる。体液が滲んでいる箇所を円を描く様に撫でれば、ロンクーの口から熱っぽい吐息が吐かれてグレゴの顔に汗が落ちた。下帯全体を汚してやろうと掌で体液を伸ばす様に上下させて刺激すれば、布越しでもペニスが反応しているのが分かった。その攻めを止めさせるのは諦めたのか抵抗はされなかったが、せめてもの仕返しなのか首筋を流れる汗を舐め取った後に乳首を舐りながらベッドと体の間に手を割りこませ、尻を揉んできた。それに対し、グレゴはもう硬いケツ触って楽しいのかねとは考えない。考える事が面倒臭い。
「…っおま、ちょっ…と待、てっ!」
「お前が、挑発、するからだろうが…っ」
「結局、我慢出来てねえ、じゃねえかっ、この早漏っ!」
しかしいきなりその手がズボンに侵入したと思ったら乱暴に下着まで下げられ、緩やかに勃起したペニスではなくてもっと奥の箇所に指先が当てられて、グレゴは少し焦った。女と違って濡れる筈もないので慣らす時は慎重にやれよと何度か言ったし、ロンクーもそれなりに気を付けて慣らしてくれてはいたが、今日は何も使わずに慣らすつもりだ。
「い…ってえ、だろっ、何回も言わせんな、相手が女だろうが男だろうが無茶な真似すんじゃ…んぐっ」
鈍い痛みが走ったのでグレゴは抗議の声を上げたが、それも途中で掻き消された。ロンクーが口を塞いだからだ。滑りこんできた舌にほぼ条件反射で噛み付くとどうやら怪我をさせてしまったらしく、自分の舌に鉄の様な味が広がったけれども、ロンクーは口付ける事を止めなかったしもっと深く押し付けてきた。だから忌々しげに睨みつけたが、のぼせた様に細められた目と視線がぶつかって抵抗する気力が失せてしまった。いつまで経っても青臭い男におあずけを食らわせるのは無理であるらしい。
体を傷付けられるのは不本意この上ないので、指が侵入してきた孔を締め付けるまいと力を抜く努力をする。どうせ指よりも太いものが入ってくるのだから念入りに解しておかないと後で痛い目を見るのは自分なのだ。体を売った事が昔あるとは言え成人してまで男に抱かれる羽目になるとは思っていなかったし、普通に生活していれば本当に排泄にしか使わない箇所に何故男のブツを突っ込まれなければならないのかと思うと理不尽この上ないが、口を離しても尚切ない吐息を漏らしながら唇を食んだり舐めたりしてくるロンクーに何を言っても無駄だと分かっている。もう少し年を取れば落ち着きも出てくるだろうか…、と淡い期待をしても今の状況が変わる訳でもなく、グレゴは内壁を擦る指先に神経を集中させた。唾液や油などの潤滑剤の介在無しに挿入された指は、肉をゆっくりと割る様に奥へ進んでくる。それが気持ち悪い。
「ん…く、…ま、待て、もう1本入れるのは待て、ま…っああぁぁ…!」
そしてぐにぐにともう一本の指が孔を押してきたので嫌な予感がして止めたのに、ロンクーは聞く耳を持っていないかの様に強引にその指を沈めてきた。何度経験しても異物が侵入してくる感触に慣れないし気持ち悪くてグレゴは汗で濡れた顔を歪め、ロンクーの肩に爪を立てる。それこそ、ロンクーが痛みで眉を顰める程度に。
「う、うぅ、っく、…っあぁ、あ…っ あ、やめ、やめろ…っ!」
孔の内部のしこりを指の腹で擦られ、下半身にぞわりと痺れが満ちていく。更にその少し奥を刺激されると脳髄まで一気に快感が駆け上ってきて、がくがくと腰が震えた。尻で快感を得るなどみっともないし屈辱にしか感じられず、歯を食い縛ると、額を流れ落ちる汗をロンクーが手で拭ってくれた後に親指の腹で唇を撫でてきた。
「噛んで欲しいってかあ?」
「…それも良いな」
横目で睨めば微かに口角を上げられ、ロンクーが挑発をする様になった事を窺わせる。憎たらしい若造だとグレゴは内心舌打ちをし、唇を愛撫していたロンクーの親指を軽く口に咥えた。孔を解すもう片方の手の指の動きに注意しながら舐め、甘噛みしながら吸い上げる。
「…指、抜け、よ」
「…まだキツいだろう?」
「しゃぶって欲しくねえのか」
「………」
口から追い出した指をちろりと舌先で舐め、滴る唾液をわざとらしく音を立てて吸うと、ロンクーは挑発に負けたのか欲望に負けたのか、あるいは両方なのかグレゴにはどうでも良いのだが、あっさりと指を引き抜いた。じんとする鈍い痛みが孔の襞を覆ったけれども無視し、ロンクーを無言で座らせる。開かれた股を覗きこめば下帯はすっかり先走りで汚れ、押さえつけられたペニスが窮屈そうにしていた。余り、というか全然やりたくなくてもせめてペニスを唾液で濡らさねば自分の体に負担がかかる事は目に見えているから口で奉仕してやるのであって、やりたいからやるのでは断じてない。自分にそう言い聞かせ下帯を解いて現れたペニスを握り、先程の指と同様、先走りの体液が僅かに浮かんでいる先端をちろりと舐めた。
「く…、…ぅ、…んん、…」
度々刺激していた所為かペニスは硬く亀頭は既に剥き出しになっており、段差を舐めながら根本を指で扱く。殆どやった事が無い男への口での奉仕が上手い訳でもないのでぎこちないが、ロンクーには十分過ぎる程の刺激であるらしく、頭上から降ってくる喘ぎ声と共にびくつく腰に溜飲を下げてペニスを口内に咥えた。しょっぱい様な苦い様な変な味が口の中に広がってグレゴは思わず顔を顰めたが、何か考えるのも嫌なので、昔買った事がある娼婦が施してくれた口淫を思い出しながら真似た。えずかない様に細心の注意を払いながら頭を上下させ、唇で扱きながら上下運動に合わせて舌でペニスに浮かんだ筋を擦る。陰毛もペニスも見たくはないので目を閉じたままやったが、口や舌である程度形が分かってしまうし手に触れる毛の感触で余計に敏感に脳内に浮かぶ気がして、どっちにしろ最悪だと思った。
「んんん、んぷ、…んぐ…っ!」
ペニスに唾液を絡ませながら口淫を続けていると、ロンクーの上半身が前のめりになったかと思えば背中から腰、尻に指が伝って割れ目に落ちてきた。四つん這いの体勢であるから可能だが、口淫をしながら慣らされるのは経験が無い。こいつ歯立てられる可能性あるって考えてねえのかと亀頭の段差を指で持ち吸いながら上目遣いで見上げると、目が合った途端にロンクーは首まで赤くなった。どういう反応なんだよ、とグレゴは思ったが、ペニスを咥えながら上目遣いで見上げてくるというのは中々に官能的、なのかも知れない。…女がやれば。
「うぅ、…ふ…っ、く…っ」
くぐもった声まで震えているのは我慢をしているのか、快感を味わっているのか、先程の挿入に比べると微かに滑りが良くなったのは恐らく自分で指を濡らしたのだろうと察しがついた。内壁を擦る指は男のものであるが故に太く、ずりずりと粘膜を掻き乱す感触によって得られる快感がグレゴの男の尊厳というものをすり減らしていく。男である自分が尻に指を突っ込まれて気持ち良いなどと思っているのだ、腹立たしい事この上ない。
「…なあ、も、もう、良いか…?」
これ以上やると射精してしまいそうなのか、ロンクーが半ば懇願する様な声音で尋ねてきたので口からペニスを解放する。唾液でべったりと濡れそぼったそれは厭らしく明かりを反射していて、他人のものは本当にグロテスクだとグレゴは思ったが、どうやらそれが顔に出ていたらしくてロンクーが申し訳なさそうに抱き着きながらゆっくりと寝台に体を寝かせた。そしてグレゴの腰の下に枕を敷くと、重量のある彼の下半身を抱える。
「…挿れるぞ」
「ん…、ゆっくりやれよ、がっついたらぶん殴るからな」
「わ、分かった」
挿入前に許可を取らせるのは俺を男にしてくれと頼まれた時から変わっていない。一呼吸置かせないと気が焦るのか、中々挿入出来ないからだ。女と違って男は真正面から挿入するには箇所が低い為、難しいらしい。だから腰の下に枕を置かせている。
「う… …んん、んぁ…」
「…は…っ、…」
唾液で濡らしたとは言えそんなもので足りる筈も無く滑りはかなり悪かったのだが、最大限に我慢したのかロンクーが慎重に腰を進めてくれたお陰で何とか全部入ったらしく、尻の肌にロンクーの肌が触れた事が分かる。お互い汗をかいている感触が嫌でも分かるしそれが気持ち悪くてグレゴは眉を顰めたまま顔を逸らしたけれども、視界の隅に映るロンクーの顔が悲しそうに変化した事が分かって尚の事苦い顔になった。本当にこいつは俺のどこがどう好きになったんだと内心溜息を吐けば、いつぞやのガイアの「締まりが良かったんじゃないか」という返答が思い起こされ、腹いせに下半身に力を籠めてロンクーのペニスを締め付けた。
「うっ…、く、 ち、力を抜け」
「俺が、力抜ける様に、努力してみろってんだ…教えただろうが」
「…ん…、」
痛かったのだろう、顔を歪めて力を抜く事を要求してきたロンクーに、グレゴは顔を背けたまま横目で睨んで投げ遣りに言った。孔の内部は思った以上に広いとロンクーも分かっているが、外部と接する部分がきつく締められてしまえば根本が締め付けられて挿入がし難くなる。挿入に慣れていないグレゴが少しでも力を抜く事が出来るようにといくつか方法を教えているので自分で考えろと言ったつもりだった。
「あ…あぁ、ぁひ…」
僅かに萎えてしまったペニスを握られたかと思うと緩急をつけながら大きな掌で扱かれ、不本意ながら嬌声が漏れる。気持ち良い事は嫌いではないから意識は孔の内部よりも己のペニスへと向かってしまい、腰が微かに動いてしまった。グレゴのその様を見て大丈夫だと思ったのか、ロンクーが腰の動きを再開させた。
「あっ、あぁ、あっ、 あっ、あ…っ」
内壁の肉を割る様に奥まで進入しては引き抜かれ、その度に天幕の中に低い喘ぎが広がる。尻への挿入よりもペニスを扱かれている方が気持ち良いが、傍から見ればきっと挿入で喘いでいると思われるに違いないし、多分ロンクーもそう勘違いしている筈だ。調子に乗りやがって、と苛々したので意地でも顔は背けたまま、絶対にしがみついてなるものかと自分の足は抱えたままにしておいた。しかしそうすると挿入がしやすいので奥まで突かれてしまい、結局嬌声を上げる羽目になってしまうという事にグレゴは気が付いていなかった。
「ああぁ、ぁぐ、ぅ、うぅ、…っああ…っ」
「大、丈夫、か、 い、痛いか…?」
「だ、大丈夫じゃ、ねえって、い、言ったら、っんん、…お前の、腰、止まる、のかぁ…っ?」
「…努力は、する」
「んじゃ言っても同じだこのバカタレっ!!」
正直なところ、グレゴは尻への挿入で強烈な快感というのは得た事が無い。勿論男にしか無いらしい内部の箇所を刺激されると頭を振ってしまう程ぞわぞわと快感の波が押し寄せてくるのだが、こんな風に出し入れされるだけではそこまで気持ち良いとは思わない。寧ろ少し気持ち悪い。しかもロンクーの「努力する」は大してあてにならない為つい正面を向いて怒鳴ってしまった。しょんぼりとした顔をしたロンクーは、それでもやっと自分を向いてくれた事が嬉しかったのか、汗が流れるグレゴの顔を掌で拭った。
「…おい、お前、なーにやって… …」
緩やかに腰を動かしながらもサイドボードに手を伸ばしたロンクーは、ランタンの側に置いたままにしていた指輪を取ると口に含んで軽く歯を立て、足を抱えているグレゴの左手をそっと取ってから薬指に嵌めた。指の根元まで嵌めると口を離し、何度もその薬指に口付けた後に顔を近付けられたので少しだけグレゴが睨むと、啄む様な口付けをしてきた。ちゅ、ちゅ、と水っぽい音が何度も響いて唇を食まれ、左手に指を絡められ握られる。不要であれば売れば良いと言った割には余程この指輪を嵌めて欲しかったのか、口付けされている間はずっと指の腹で指輪を撫でられた。
「…お前の様には、出来んが… …上達出来る様に、努力、する」
口を離したロンクーは何と言ったものか分からなかったのか、言葉を慎重に選びながらそう言った。多分捨ててくれるなと言いたいのだろう。昼間にロンクーの腰が砕ける程の口付けをしたからかと予想はつくが、そんな捨て犬の様な顔で言われても困る、とグレゴは矢張り顰めっ面になる。ツラだけは良いのに残念過ぎる男だ、と、彼は面倒臭そうに眉を顰めたまま振りほどいた左手でガリガリと頭を掻き、その手で軽くロンクーの頭を叩いた。
「なっさけねえツラしてんじゃねえっつーの。
 お前は情けねえままで良いかも知れねえが、俺ぁそんな男侍らせるつもりはさらさらねえぞ」
「…なら、もっと上手くならんとな」
「………精々上達してみろよ、若造」
「了解した」
失恋を経験しなければ良い男になれないと言ったグレゴに対し、ロンクーはお前を諦めるなら情けないままで良いと言った。しかしそれはロンクー本人の自己満足であって、グレゴとしては側に居る男が情けないままであるのは何となく釈然としないと言うか、有り体に言うと気に食わない。だから俺の側に居るつもりならそれなりに良い男になれと暗に言った訳だが、ロンクーはこの指輪を渡したあの夜と同じ事を言ってきたのでグレゴも思い切り鼻で笑う様な顔をして同じ事を言った。その事に、お互い何となくにやっと笑ってしまう。終わったら絶対外してやる、と指輪を一瞥したグレゴは再度足を抱えて続きを促した。
「……は、んん、ん、んっ、」
「ん、あぁ、あ、…グレゴ…っ」
「んんんっ、んぐ、んむ、んぁっ…」
挿入の振動でずり下がる服が汚れるのも嫌なのでグレゴが裾を口に咥えると、絵面が淫猥であったのかロンクーの腰の動きが速くなった。単純な奴だと突き上げで霞む頭で思ったが挑発したのは自分であるから文句は言えない。ちらと見たサイドボードのランタンの中の蝋燭はまだまだ尽きそうになくて、グレゴは今夜も長い夜になりそうだと胸の中で独りごちた。