オオカミだ〜れだ?

 連日の野宿から解放され、やっとの思いで街に辿り着いて宿をとり、食堂で食事をしていたホークアイ達だったが、疲労がピークに達していたのか食べながらシャルロットがうつらうつらし始めたので、心配したケヴィンが食事を中座して彼女を先に部屋へ送り届けた。その背中を見ながらホークアイはこれが本当の送り狼だな、などと思いつつも旅を始めた頃のケヴィンを思うと成長した様な気がして微笑ましかった。自分より年下の成長を見るのは楽しいものだと独り言ち、香辛料をきかせたじゃがいものフライを食べていると、戻ってきたケヴィンの頬が何やら赤い。おや、と思ったがどうしたのか聞くのも野暮な気がして黙っていると、ケヴィンは着席して暫く無言でフムスを塗ったパンを齧っていたけれども、意を決してホークアイに尋ねてきた。
「なあ、ホークアイ、オイラ、おかしい?」
「んー? 何でだい?」
「さっき、シャルロットを部屋に連れてって、先に寝てて、言った。そしたらシャルロット、オイラのほっぺたに口くっつけてきたんだ」
「……ほほーう、それで?」
「よく、わからないけど、ドキドキした……」
「……そうかそうか〜」
 なるほど、シャルロットはどうやら寝ぼけてケヴィンに就寝の挨拶のキスをしたらしい。今までそんな事をした試しが無かったシャルロットは、恐らく光の神殿に居た頃にそういう習慣があって、寝ぼけていたから間違えてケヴィンにしてしまったに違いない。対するケヴィンは十五歳とは言っても異性と殆ど過ごした事は無いだろうし、そもそも一人で居る事が多かった様であるから、「頬に口を付ける」事が何を意味するのか分かってない可能性が高い。しかしドキドキしたと言っている以上は、何かしら思うところがあるのだろう。
「お、おかしいかな?」
「いいや、全然。寧ろ、正常な事なんじゃないか?」
「そう、なの?」
「ふっふっふ。まあ、お兄さんも一緒に考えてあげよう。ケヴィンもお年頃なんだなあ」
「オトシゴロ……?」
 この少年は色恋沙汰に疎く、ホークアイが見ても魅力的だと思う様な女性達を見ても全く意に介さないし、どちらかと言えば色気より食い気だ。食べ盛りなのでしょうがないかもしれない。ただ、送り狼と内心思っていたというのに、その送り狼が食われたのか、と思うと何ともおかしくて、未だに少し頬を染めているケヴィンが小首を傾げたのを見て、さてどこから説明したものか、と思案しながら白身魚のフリッターを口に運ぶのだった。