泥に沈む

 兄の部屋の前で扉を睨みながら、セラフィは入室の為のノックをするか否か迷っていた。いくら怪我をしているからとは言え時刻は深夜三時を回っており、普通の人間は深い眠りに就いている筈の時間であるから、起こすのは憚られる。しかし自分で応急処理をして朝を待ち、兄が起床してから頼もうものならちゃんとその時に叩き起こせと怒られる。否、その程度の叱責なら別に構わないのだが、いつだったか脇腹の切り傷を縫合してもらうのを夜明けまで待っていたら馬鹿者と叱られたどころか三日は外に出してもらえなかった。過保護も良いところだ。
 また、すぐに戻れなかったからと言い訳したところで相手は傷病を診るプロであるから、負傷してからの経過時間もおよそではあるが分かるのだが、以前こんな会話を交わした事がある。

『四、五時間は経っている様だが何があって戻れなかったというのだ。アリアドネの糸は持っているだろう』
『……新入りが迷ってたから情けでやった』
『ふうん。
 僕は統治院の職員でもあるからギルド名簿なんてすぐにチェック出来る訳で、
 お前が糸をあげたというそのギルドを調べる事も出来るが、どんな面子だったのだ?』
『………』

 ……とにかくその場を言い繕ってもばれた後が面倒臭いので、おとなしく起こして手当をしてもらうのが一番なのである。なのであるが、ほぼ休み無しで診療所の切り盛りをしている兄の睡眠を妨げるのは気が引けた。だからセラフィは相変わらず扉を睨みながら腕に負った大きな爪痕を押さえている。
 しかしこうしている間にも時間は過ぎる訳で、時間の経過と共に傷口の状態は変化していくし、血は固まっていく。おまけに弱い雨が降っていたから体が冷えきっており、このまま扉の前で悩んでいては確実に風邪をひく。ままよ、と腹を括った彼はとうとうその扉をノックした。
「――はい」
「……俺だ。すまんが手当てを頼みたい」
「入れ」
「身支度が済んだら言ってくれ」
「良いからさっさと入れ」
 眠っていたせいか返事が少し遅かったが、しかし用件を短く述べると随分としっかりした声で入室を促され、不承不承扉を開ける。ノックの返事の時に寝台から降りたのか、兄が――クロサイトが明かりを点けており、入室してきたセラフィをちらと見て備え付けのチェストからタオルとカーディガンを出した。
「濡れたな。手間取ったのか」
「……それなりにな」
「羽織っておけ。風邪をひく」
「ん……」
 チェストに置かれたカーディガンを腕を通さず羽織るとまだ少し濡れている頭にタオルを被せられ、それくらい自分で出来ると言おうとしたセラフィは腕の痛みにその言葉を邪魔されて結局言えなかった。腕が痛くて力が入らず、自分ではちゃんと拭けなかったからだ。されるがままに椅子に座って髪を軽く拭いて貰い、すぐに腕の傷を手当てしてもらって至れり尽くせりではあるのだが、微妙な顔しか出来ない。三十路にもなってこれなのだ、そんな顔にならない方がおかしい。
 そもそも、ここはクロサイトの自室であって手当て道具を置いている診察室ではない。しかしこうやってセラフィが仕事で夜中に怪我をして帰ってくる事も多い為、クロサイトは自室にも常に手当てに必要なものは一式置いている。診察室まで行くと言っても聞かないので、セラフィはもう言うのも面倒臭くなって好きな様にさせていた。過保護は昔からでも年を経るごとに拍車がかかっている様な気がするが、言及しても押し問答になって自分が言いくるめられる事は目に見えているので、彼はもう諦めている。
「肉が少し抉れているが神経まではやられていないな。腕に痺れはあるか?」
「いや、無い。痛いだけだ」
「そうか。なら、せめて今日一日は安静にしておけ」
「そこまで痛まんぞ?」
「僕に手ずから食べさせてもらいたければ樹海なり石林なり行くと良い」
「………」
 セラフィは長袖の服しか持たない為に傷口を刺激しない様に袖を捲ったまま手当てを終えたクロサイトが上目遣いで半ば脅しの様な事を言ってきて、何でこいつはこうまで過保護なんだと頭を抱えたくなったのだが、負傷したのは利き腕であるし無理をすれば確かに命の危険に関わる為に分かったよとしか返事が出来なかった。碧照ノ樹海含めた風馳ノ草原や丹紅ノ石林は常に気を張っておかねばならないとセラフィは思っているので利き腕の僅かな鈍りでさえも致命傷になり兼ねない。
「……っくし!」
 手当てもしてもらったし睡眠の邪魔をしてしまったクロサイトにも休んでほしかったので早々に辞そうとして腰を浮かしかけたセラフィは、弱雨だったとは言え長時間外で打たれた為に体が冷え切っていたので盛大にくしゃみをした。ずず、と洟を啜ると額に手を当てられ、その上からクロサイトが額を当てる。彼がセラフィの熱を測る時の癖だった。
「随分体が冷えているな。雨宿りはしなかったのか」
「する暇あるか、雨晒しになんか出来ん」
「死んでいたか。どこだ」
「……蛾の庭」
「相変わらず扉を開けようとしたがる輩が多いな……、蛾にやられていたのか」
「いや……同士討ちみたいだった」
「斬り掛かられたのか?」
「……全員死んでた」
「……そうか」
 丹紅ノ石林にある人喰い蛾の庭と呼ばれる場所には開かずの間があり、そこの扉を開ける為に探索に挑む者も多い。しかしその庭にはこちらを錯乱させる胞子を噴射してくる魔物も居り、その結果同士討ちとなり全滅、というギルドも少なくない。セラフィが今日埋葬したのは少人数で探索に来たのか、それとも死んだ仲間を置き去りにして逃げたのか、調べないと分からないが三人の男女だった。遺体の傷みも少なかった事から死んでまだ間もなかった様で、だから彼にも気になるほどの異臭は移らなかった。ただ、埋葬し終わって戻ろうとした時にその音を感知したのかビッグモスに襲われ、幸いにも強まった雨足に乗じて逃走出来たのだがその直前に不覚をとり利き腕を鋭い爪で斬られたという訳だ。所持していた剣を落とさなかっただけ上出来ではあるだろう。
 裏庭の井戸から汲み上げた水で服の泥を落とし、出掛ける前に予め風呂の脱衣所に用意していた服に着替えたが、湯を沸かす気分には全くなれなかった。そもそも体脂肪が極端に低い彼は水に沈んでしまうから、風呂に浸かる事さえ嫌いだ。
「お前が知っている顔だったのか?」
「……名前までは知らん」
「そうか。つらかったな」
「いちいち悲しんでたら身が保たん」
「そうだな、酒も増えるから体には良くないな」
 温めようとしてくれているのか、額を離してから中腰のままセラフィの背に腕を回したクロサイトは労わる様に背を撫でる。タルシスに集う冒険者は多く、それだけ命を落とす者も多い。その者達全員を埋葬出来る訳では決してないが、野晒しのままにしておくのは忍びないからとセラフィは夜闇に紛れて出来得る限り葬ってやる。単なる自己満足と分かっていても彼はそれを職としたし、また可能な限りどんな冒険者とも親しくなろうとしなかった。下手に顔見知りとなった者達の遺骸を埋める事が頻繁になってしまえば精神的に参ってしまうからだ。だから彼は友人らしい友人を作らない。
「……おい、こら、何してる」
「うん? お前が酒を飲まなくても眠れる様にしようかと思って」
 この仕事を選んだのは自分であるから誰に対して弱音を吐く訳にもいかず、だから暫く無言で感傷に浸っていたのだが、背に回されていたクロサイトの手が不意にもぞもぞとシャツの裾を捲ってきたので抗議の声を上げたというのに、いけしゃあしゃあと言い放たれた言葉にセラフィは今度こそ眉間に皺を寄せた。
「下心が見え見えだ、よせ」
「心外だな、気遣いと言ってくれ」
「何が気遣いだ! やめ……んぐっ」
 押し退けようにも怪我をした腕に力を入れればそれなりに痛みが走るし、基本的に兄に逆らわない――否、逆らえないセラフィは今回も本気で拒絶する事が出来ずにそのまま口を塞がれてしまった。背凭れが無い椅子であるから退こうにも落ちそうであるし、かと言って支えてもらうのも癪だし、仕方ないので下半身に力を入れて椅子から落ちない様に心掛けたものの、滑り込んできた舌が好き勝手に口内を蹂躙してくる上にシャツの中に差し込まれた手がひたりと腹を這ってきたので努力も虚しく全身の力が抜けた。
「うぅ、う、ふぁ、……ぁ、よせ、よせ、やめろ、や……あぁっ!」
 体は細いがそれなりについている腹筋の上を指先で波を描く様に撫でられ、切り揃えられた爪で軽く引っ掻かれただけでも腰が抜けそうになったと言うのに、跪かれて何の遠慮も無く吸い付かれ、セラフィの口から熱い吐息が漏れた。彼はどういう訳か性的な意味で腹が弱く、こんな風に愛撫されたり口や舌が這わされると耐えられずに嬌声を上げる。……知っているのは今のところ、幸か不幸か兄だけであるが。
「やめ、やめろ、クロ、頼むからもうやめ……あぁぁぁっ!」
 懇願する様に首を横に振ってもやめてもらえず、それどころか大きく開かれた口で思い切り歯を立てられ、懇願は悲鳴に変わった。ぐらりと崩れたセラフィの体は腰に回されたクロサイトの腕がしっかりと支えており、セラフィは半ばクロサイトの頭を抱え込む様な体勢で痛みが混ざった快感に弄ばれた。腰が震えてまともに座れない。
「……相変わらず腹が弱いな」
「悪いかっ!!」
「全く。むしろ鳴かせ甲斐がある」
「な、ん……っ、んぁ、ああぁ、
 ……ろ、クロ、落ちる、せ、せめて床か寝台でやってくれ、頼むから」
「それもそうだな、これ以上怪我を増やす訳にもいかん」
 首を上げながら腹を甘咬みされるとちょうど下腹にクロサイトの顎が擦れ、ざりざりした感触の髭が当たって余計に腰から力が抜けそうになり、セラフィはとうとう観念したかの様にやめさせる事を諦めた。もうこうなったら何を言おうが何をしようが兄は止めないと分かっているので、不安定な椅子から降りたい。弟の頼みという名の妥協を聞き届けたクロサイトは細身の体の両脇を抱えて立ち上がると、布団が捲れたままの寝台の縁にセラフィを座らせた。袖を通さず羽織っていたカーディガンは短い役目を終えたとばかりに床に落ちていた。
「……は、あぁ、」
 寝かせろよと思ったが言う間も与えられず口を啄みながら指先で股間を弄られ、目の前にあるクロサイトの目を抗議の意を込めて睨むとその目が細められた。笑ったらしい。心得た様にズボンを脱がそうとしてきたので何とも言えない心持ちで腰を浮かせ、履いていた替えの靴ごと脱がされて几帳面にその靴を揃えて置いたクロサイトを見ながら起きたら泥だらけのブーツを洗わねばとやけに冷静な事をぼんやり考えていた。
 脱衣所で着替える時に手当して貰って寝るだけ、断固として速やかに寝ると思っていたセラフィはいちいち巻き直さねばならない下帯を面倒臭がって着けておらず、クロサイトも特にそれを疑問に思っていない様で、腹への愛撫によって既に半勃ちになったセラフィのペニスを軽く持って根本から頂まで舐め上げると亀頭を咥えた。
「ふ、ぁ、あぁ、……うぅ、……っ」
 わざと音を出しながら口に出し入れされ、唇を噛みながら耐えていたが、夜の仕事でくたびれて寝るという生活を送っているセラフィは食欲と睡眠欲が性欲に勝る為に気が付けばかなりの期間自分で処理をしていないという事が多い。というかたまに兄が問答無用で襲ってくる事があるので自分でやる気にもなれない。早い話が今の彼は溜まっているのですぐに追い上げられ、腰を引きそうになってもしつこく口内にペニスを埋められ、その度にクロサイトの喉の奥の柔らかい肉に鈴口が当たって呻き声が混ざった吐息が出た。負傷した右腕を庇って寝台についた左腕に体重をかけすぎて少し痺れが出てきた様な気もするが全身痺れている様な気もするし、何だってこんな真夜中にくたびれて寒いのに痛いやら気持ち良いやら恥ずかしいやらの思いをしなきゃならんのだ……と思うと段々腹が立ってきて、セラフィは自分の股間に顔を埋めているクロサイトの股の間に足を伸ばした。
「っ、……ぅ、……んん、……」
「は、ぁっ、……」
 爪先が当たった瞬間に吸われ、足先から逃れようとしているのか腰が僅かに浮いた辺り、反撃はそれなりに効いているらしい。弄ばれているペニスではなくて足先になるべく意識を集中させ、足の甲を器用にクロサイトの股間に擦り付けてやると、彼は鼻から抜ける様なくぐもった声を出した。
 セラフィの性感帯は腹であるが、クロサイトの性感帯は口の中だ。自分から口付けるのはまだ耐えられるらしいがこちらから攻める様に口付け口内を暴くと反応が顕著になる。それは何も口付けだけに限らずこうやって口で奉仕している時も同様で、自分のものを咥えながら勃起させている事を知っているセラフィはせめてもの仕返しとばかりに足を擦り付けた。すぐに冷えた素足にズボン越しでも伝わる程に形が顕になったそこは、紛れも無くクロサイトが性的な興奮を感じている事を教えてくれていた。弱らせてから攻める事を本業にしているのはこちらなのだ、反撃出来ずに居るのは何となく悔しい。
「……行儀の悪い足はこれか?」
「その、行儀の悪い、足が好き、だろう」
「違いない」
 しかし我慢が出来なくなってきたのかペニスが解放された代わりに足を捕まれ上目遣いで見上げられ、セラフィは中途半端に放置されて冷気によるものなのか快感によるものなのか分からない腰の震えを誤魔化しながら悔し紛れに少しだけ口角を上げた。中断させられる程度には追い上げる事が出来たらしい。
 だが、そんな微かな優越感もすぐに吹き飛んだ。何の躊躇いも無くその足先を咥えられたからだ。
「ふぁ、ばっ、よせっ」
「何故だ?」
「な、何故も何も、まともに洗ってない足を舐るな」
 指の間にねっとりと這った舌が冷えた足に熱く、またその擽ったささえも一気に腰まで駆け上る電流へと変わったが、抗議の方が勝って嬌声よりも不満の声が出た。いくら泥を落として着替えた時に拭いたと言っても水浴びをした訳でもないのだから口に含まれるのは抵抗がある。腹を下したりでもしたらどうするのだ。そんなセラフィの気遣いを、しかしクロサイトはあっさりと流した。
「洗ってないペニスをしゃぶってるんだから今更だろうに」
「こ……っの、変態」
「その変態がお前の兄だが?」
「知ってるよ……」
「なら諦めろ」
「ああ、もう、好きにしろ、もう知らん」
「言われなくても好きにする」
「なん……ぅあああぁっ!」
 本当にああ言えばこう言う、と苦い顔をして全ての抵抗を諦めたセラフィは、不意に力任せに寝台に押し倒され腹を襲ったざらつきに悲鳴を上げた。逃げられない様に腰を抱かれ、遠慮もなく腹筋に頬擦りされたからだ。脂肪が殆ど無い為にダイレクトに神経を刺激され、汗ばんだそこはクロサイトの体毛を一本も残らず感受したし自分が零してしまった体液の熱さで火傷をしたのではないかと錯覚する程で、しかも指の腹で先端の割れ目を捏ね回された挙句に腹に頬擦りされたまま亀頭を口に咥えられてとうとう涙が出た。
「やめ、ろ、やめ、ああぁ、い、いく、出る、あぁ、……っ?!」
 髪が擦れる感触までぞわりとする快感となり、性急に快感を与えられ痛みも忘れて手を伸ばしクロサイトの頭を引き剥がそうとすると、あっさりと顔を離されてセラフィは逆に困惑した。確かに止めろと言ったのは自分ではあるが、それにしてもこんな段階で止められても困る。荒い息を吐いて次の何らかの刺激を与えられる事を待つ自分の顔を口元を拭きながら覗きこんできたクロサイトを、セラフィは睨んだものかどうか分からなかった。普段は前髪で隠れている、潰れた左目が見えてしまったので。
「止めて欲しいのかイきたいのか、どっちだ?」
「お……前、さ、察しろ、何で、」
「いくら双子でも言われなければ分からん。どっちだ」
「………」
 腹だけ捲られたシャツは既に汗で濡れ、その汗が冷えたのか、それともクロサイトが彼の薄い唇に舌を軽く這わせた姿に反応したのか、セラフィは頭の奥がぢり、と焼けた様な感覚に見舞われて一層顔を歪めた。充血した下半身はただ最後の刺激を待ち、体全体がどこかに沈んでいく様な錯覚にすら襲われる。逆らえない、のだ。その、潰れてしまった目を見ると。

「―――言え。どっちだセラフィ」

 普段は略してしか呼ばぬ癖にこういう時だけちゃんと呼ぶ兄は心の底からずるいと思うし、逆らえぬ事を知っていて敢えて命令口調で言うのも憎らしいが、一番腹立たしいのは力は優っているから押し退けられるのにその気が全く無い自分なので、口の中で畜生と呟いたセラフィは僅かに残っていた自尊心で背けた顔を腕で隠した。

「お、前の、……お前の、口、で、 ……お、……犯してくれ……っ」

 その言葉が一番煽ると分かっていて言ったのは卑怯かも知れないけれども、ずるいのはお互い様なので反省など全くする気が無い。案の定その煽りが効いたらしいクロサイトはセラフィが顔を隠した腕を無理矢理引き剥がして自分の方を向かせると、噛み付く様に口を塞いだ。
「……言えたご褒美をやろうな」
「は……あああぁ、ああ、あ、あっ、ぁあ、」
 すっかり唾液まみれになった口の周りを拭いた後、クロサイトはもたげたままのセラフィのペニスを再度咥えると頭を大きく動かして根本までしっかりと口に含み、何度も出し入れした。細心の注意を払っているのか歯が竿に引っ掛かる事も無く、熱くて濡れた口内は柔らかくて、拒絶の言葉を何とか封じたセラフィはそれでも与えられる快感に耐えられず無様な嬌声を上げる事しか出来なかった。
 ただ、先にも述べた様に、クロサイトの性感帯は口の中だ。だからペニスを咥え込んだそこはある意味擬似性器だし、つまりこの口の奉仕は擬似挿入になる。口で犯してくれと懇願した自分が兄の口を犯していると思うと訳の分からぬ興奮を覚え、セラフィは知らず腰を振ってクロサイトの喉奥を突いた。
「ぅぶ、う、う゛ぅ、ん……っ」
「あぁ、はぁっ、……っく、逝く、クロ、来る、出るっ、あぁぁ……っ!」
 喉奥を突かれて苦しそうな声がしたものの、音を立てて吸われ、きつく閉じた目の奥がチカッと光った瞬間にそれまで堰き止められていた熱い塊が外へと噴き出し、セラフィは痙攣する体から力が抜けるのを感じた。熱で生ぬるくなった寝台は体を受け止めてくれているのに彼はやはり沈む様な錯覚に見舞われ恐ろしくなり、半分意識を無くしながらも虚空に腕を伸ばすと、傷を労る様に優しく腕を掴みきちんと寝台に横たわらせて抱いてくれた体温に安堵して、随分疲れていた事もあってそのまま泥の様に眠ってしまった。腕の痛みは、その間だけは感じなかった。



 その後しっかり風邪をひいて寝込んだセラフィは結局クロサイトに手ずから食わせてもらう羽目になったが、それはまた別の話である。


※※※※※※※


「ところでお前、あの後どうしたんだ」
「お前の寝顔で抜いた」
「引くわ!!!!!!!!!!」