閉じられた小部屋

 かわいいね、と、髪の長いその人は言った。僕は怖くて何も返事をする事が出来なかった。

 ある日の夜、旦那様は一人の男の人を連れて久しぶりに帰宅してきた。この人は時々僕のおうちに来ては旦那様の部屋で一晩過ごして帰っていく。僕はその事を特に不思議に思った事は無かったけど、この人が来ると奥様のご機嫌が悪くなって僕をよく叩くし、ヒステリックに叫んで髪を引っ張って床に叩き付けたりするから、あんまり来てほしくなかった。
 今日も来たんだ、また奥様に八つ当たりされるんだろうな、いやだな、と思った僕は、おうちの地下にある倉庫に逃げようとしていたところを、この人に捕まった。大きくなったね、ちょっと遊ぼう、と言われて、後ろに居る旦那様が怖くっていやですと言いたかったけれど、そう言っても多分鞭で打たれる様な気がしたから真っ青な顔で頷くしか出来なかった。
 お外は雪が降っていて、でも旦那様のお部屋には僕のお部屋には無い暖炉があるから寒くなかった。暖炉の中で燃える薪の音は、僕には怖い。あんまり聞き慣れない音だったから、びくびくしながら立っていると、髪の長い人からいきなり寝台に放り投げられた。何が起こったのか分からなくて動けない僕をその人が押さえ込んで、上着を脱がされた。でも、全部脱がされた訳じゃなくて、腕の途中で止められたから、後ろ手に縛られたみたいになった。
 何をされるのか全く分からなくて、僕が青い顔で見上げると、その人は遊ぶだけだよとにっこり笑った。相変わらず旦那様はご機嫌が悪そうな顔をして僕をじっと睨みつけていて、僕はそれも怖かった。きっと後で激しく鞭で打たれてしまう。そう思うだけで体が冷えて、怖くて、涙が出た。
 泣かなくて良いのに、ちょっと楽しい事するだけだから、と言ったその人は、僕の肩を容赦なく噛んだ。痛くて怖くて叫ぶと、旦那様が煩いと怒鳴って僕の口にタオルを詰めた。そんな旦那様に、その人は子供相手に大人気ない、と笑っただけで、タオルを取ってはくれなかった。
 それからその人に何をされたのか、その時の僕にはよく分からなかった。乳首を吸われたり、おへそを噛まれたり、性器を弄られたりしたけれど、その時の僕はそれがいやらしい事だとは知らなくて、ただただ怖かった。タオルのせいで声が出なくて、うーうー唸りながら泣く僕は、性器の皮を剥かれて無理矢理精通させられた。シーツ汚すなよと旦那様に性器を叩かれて、漏らしたと勘違いしてもっと泣いた。だけどその人はちっとも僕を擁護しようともせず、こんなちっちゃくても射精すんだなあと感心した様に笑いながら言っただけで、旦那様に言い付けて持って来させたペンで僕の胸に棒を引いた。
 回数数える棒が五本引けたらおしまいにしようね、と言ったその人は、それからも執拗に僕を噛んだり抓ったり、かと思えば優しく撫でたりしながら性器を弄った。やめてください、もう許してください、と言いたかったのだけど、タオルが口に詰められていたから唸り声にしかならなかった。漏らす度にかわいいね、と言いながら線が引かれ、僕にはその「かわいい」が最早怖い言葉にしか聞こえなくなっていた。
 そしてようやく線が五本引かれた後、汗びっしょりになった僕の口からやっとタオルが取られたけれど、僕はもう声を上げる事が出来なかった。汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった僕の顔を初めてその人が撫で、顔を覗き込んできた。綺麗な顔をしているその人は、だけど僕には恐ろしい人にしか映らなかった。


 かわいいね。また今度つまみ食いしようかな。


 目を細めて言われたその言葉に、寝台の側で足を組んで座っている旦那様が大きな舌打ちをした。僕は怖くて何も返事をする事が出来ず、ただ首を横に振って泣いていた。