口の中の欲望

 目の前にあるベルトのバックルに手をかけ、ゆっくりと外す。カチャ、カチャ、と時折鳴る金属音は普段の生活の中では特に気にならないものであるし、まして微かに腰の痺れをもたらすものではない。しかし現に腰からゆっくりと這う様に上ってくる痺れは、項を伝って頭を眩ませた。
 寛げた股間は、まだ平静を保っている。これをどうしようか、どんな風に可愛がろうか、そんな事をちらと考えただけでも皮膚の表面に静電気が溜まっていくのが分かる。下着の上から形を確かめ、内股に頬擦りすると、腰を浮かされた。下着を脱がせる事を要求された様であったから、素直にズボンと一緒に下着を脱がせる。足元まで降ろしただけの状態であれば自分が股の間に座りづらくなるので、靴を脱がせてからそのズボンを脱がせ、律儀に畳んで放置した。
 柔らかいままのペニスに触れる。こんなに柔らかい肉棒が、刺激を与えればたちまちの内に固くなっていくというのだから人体というものは不思議だ。自分にも付いているものとは言えまじまじと見た事は無いものだから、つい観察してしまう。先端を抓んで持ち上げ、皮に半分隠れた亀頭を剥き出しにする為にぐいと手をペニスの根本まで下ろせば、ここまで肌の色と違うものかと思う程の赤みがかったピンク色の亀頭が顔を出した。それに、思わず口元を綻ばせてしまう。鍛えようがないペニスの、一番弱いところだ。
 舌を少し出し、亀頭の段差をちろりと舐める。舌の先でくすぐる様に段差を擦り、指の腹で優しく先端の割れ目を撫でる。舌を少しずつ下方へ下げつつやや厚い唇を使って竿を食み、裏筋を刺激していく。された事があるやり方を丁寧に思い出しながら、まるで復習するかの様に施すと、柔らかかった肉が段々と硬度を上げてきた。
 亀頭を口に咥える。歯が当たると痛いなんてものではない事は身を以て知っているから、慎重に唇で段差を締めながら舌で割れ目を擦れば、そこから溢れる体液が口の中に溜まっていく。舌と唇を使いながらであったから上手く飲めなくて、口の僅かな隙間から零れて顎へ伝い落ちていった。その感触もいちいち腰に微弱な電流を走らせ、股間の熱が上がっていく。以前口で散々犯された時の事を思い出してしまい、腰に力が入らなくなって床に座り込んでしまった。それを見たからか最初からそのつもりだったのか、そっと足が伸びて爪先で股の間を刺激され、びりびりと帯電していくのが分かったし、もっと強い刺激が欲しくてはしたなく腰を押し付けると、制する様に耳を優しく抓まれ耳朶を揉まれた。
 片手で陰嚢を揉み、もう一方の掌で亀頭を包んで揉んだり擦ったりして体液の淫猥な音を楽しみながら唇や舌で浮き上がった筋を可愛がる。必然的に竿に当たる鼻も精液で湿り、唾液や先走りの体液で口周りがべたべたになっていく。巧い訳ではないと知っているから汚してしまうのは仕方ないが、夢中になっていたものだから拭う事すら忘れていた。扱く時の、くちゃくちゃという水っぽい音と、快感を享受している吐息と声、強張る内股が好きだ。筋肉が締まって固くなった汗ばむ内股にも舌を這わせて甘噛みして吸い上げれば、熱を孕んだ喘ぎの様な声が耳に滑り込んできた。鬱血の跡は余程の事が無い限りは他人に見られる事は無い。それが秘め事の後ろめたさを更に助長させるし、また猥褻さを感じさせる、様な気がする。
 下着の中で窮屈にしている自分のものも、滅茶苦茶に扱いてしまいたい。指の腹を先端に擦り付け、肉刺が何度も潰れた掌で竿を扱き、承諾を請うてから命じられて絶頂してしまいたい。そんな欲を抑えつけ、また自分にそうする代わりに手の中のものを口内に埋めて激しく扱いた。あっという間に口の中で更に大きくなったそれで喉の奥を突く様に出し入れすると、股間を刺激してくれていた足が止まってしまった。もっと、もっとと腰を押し付けようにも思う様に体は動かず、体にフィットするインナーが汗で更に肌に張り付き、触ってもいないのに乳首が勃って布に擦れた。それが更に拍車をかけて快感を増幅させ、帯電が強まっていく。
 出る、と、短い言葉で限界を告げられ、そのまま欲しいと言う意思表示の為に一際強く口の中で吸うと、それまで口内に漏れ出していた先走りよりも粘度が高く量も多い体液が注ぎ込まれた。しょっぱい様な、苦い様な、生臭い様なその体液を、喉を鳴らしながら何とか飲み下す。そして唾液で濡れる肉棒を解放してから口を開けて舌を出し、口の中を披露してみせた。飲んだのか、とでも言いたげに伸びた指が唇を撫でた後に口の中を掻き回し、口内に精液が残っていないかどうかを確かめてから指が入ったまま口付けられた。絡まる舌が唾液を飲み込む事を困難にさせ、床に零れ落ちていく。じんじんとする腰の快感の痺れは、体をびくつかせていた。


 ―――もっと良い事しよう。


 耳元で囁かれた言葉に頷けば両脇を抱えられ、寝台に共に雪崩れ込む様に寝転ばされつつ足で靴を器用に脱がされる。首に顔を埋められながら既に限界が近い股間を膝で刺激されて電流が全身を駆け巡り、その放電が響いたのか、僅かにくぐもった声が聞こえた。今夜もお互い、全身濡れる事を覚悟した方が良いだろう。