寝る前の秘密

 薄暗い部屋の中、座ったまま頭からシーツを被って弟と向かい合い、寝間着のズボンを脱いで露出した下半身を見せるのは僅かに抵抗があったが、気まずくも食い入る様に見ている弟が所望したので恥じらいは塗り潰された。時折水っぽい音がして、体液が漏れている事を教えてくれているし、僕もそれを掌に擦り付けては竿に伸ばす。ぬるぬるして気持ち良くて、頭がじんと痺れた。
 弟が夢精して精通した事に驚き、寝小便したと寝ている僕の部屋に駆け込んできたのはつい五日ほど前の事だ。学び舎に通えていない弟は二次性徴で男が精通すると知らず、夢精も知らなかった為に白濁した精液を小便と勘違いしたらしくて、僕を起こしたらしかった。そんな可愛い事をされてしまっては僕も悪戯したくなったから、弟を背後から抱いて自慰の仕方を教えてしまった。
 その時に精液の事を白いおしっこなどと言ってしまったからなのか、今日、いつもの寝る前の挨拶で頬に軽くキスすると、弟がもじもじしながら聞いてきたのだ。僕もその白いものが出るのか否か、と。
 勿論その問いは、出るよ、の一言で終わらせる事が出来た筈なのだ。と言うか、普通はその一言で終わるのが自然だ。だけど僕は、その一言の後に見てみるかい、と付け加えてしまった。我ながらおかしいとは思うけど、呆気に取られた後に頬を染めながら頷いた弟も中々おかしいと思う。
「……う、ん……」
 真ん前で見られながらの自慰はやりにくかったけど、いつも想像してる弟の顔がそこにあって、ベッドに両手をついたままじっと僕の股間を見ている姿に言い様もない興奮が湧き上がる。強引にその細い肩を掴んで、半開きになった口を塞いでしまいたい。五日前に聞かせてくれた、可愛い声がまた聞きたい。あの夜の声と真っ赤にしていた耳や項を思い出して翌日は全く勉強なんて手につかなかったし、夜は二回も射精してしまった事を教えて反応が見たい。想像しただけでぞくぞくして、掌の中のものが一層膨れ上がる。普段は柔らかいものが、いやらしい事を考えながら触って可愛がるだけで硬くなるなんて人間の体は本当に不思議だ。僕はそんな事を思いながら、先端の割れ目に親指の腹を擦り付けた。
「あぁ、あぅ、……ねえ、フィー、見せてあげる、から、僕のお願い、聞いてくれる?」
「え……なに……?」
「あの、ね、……おとなのキス、させて」
「…………いいよ」
 僕と同じ様にシーツを頭から被った弟は、「おとなのキス」の意味が分かっていない顔をしながらも上目遣いで頬を染めて僕のお願いを承諾する。断る事など無いだろうと思ってはいたけど、こんなに簡単に頷かれてはこれから何度も頼んでしまいそうだ。でも未来の事は未来の僕が考えるだろう。そう思って、僕はもうぐっしょりと濡れた手で竿を扱きながら薄い唇を塞いだ。押し倒すのは、ほんの僅かに残っていた理性で耐えた。
 単に唇を重ねるだけだと思っていたのだろう弟は、僕が舌を入れてきた事に驚いた様でびくりと体を跳ねさせたし漸く「おとなのキス」がどういうものであるのかを理解したらしく、股の間についた手でぎゅうとシーツを握り締めた。その反応が可愛くって、目の前の鳶色の瞳が見る間に潤んでいくのが堪らなくって、逃げようとする舌を僕は夢中で追いかけて吸った。唾液が甘く感じられて、痺れ薬でも飲んだみたいに僕の体も頭も痺れていく。思わず深く口付けた僕の体を押し返そうとして胸に触れた手の感触に、僕は呆気なく達してしまった。
「……ね、一緒だよ」
 唾液の糸を引きながら口を離した僕は、荒い呼吸のまま掌にへばりついた精液を見せる。暗くて見えにくかったのか、弟は恐る恐る覗き込む様に僕の手を見た。
「……おんなじ?」
「うん、おんなじ」
「……どきどきするのも?」
「どきどきしたの?」
「……うん」
 触るのは抵抗があったらしく、指差しながら尋ねる弟に僕はこっくり頷く。そして、恥じらいながらもどきどきした――恐らく興奮したという意味だろう――事を白状した彼は、悟られない様に股間をきゅっと閉めて僕から見えづらい様にした。
「一緒だね」
「……うん」
 気がついてないふりをした方が、多分これ以上独占欲を強くしないで済む。そう思った僕は同じだと言っただけで、用意していたタオルで掌の精液を拭いてからベッドに寝転んで弟を手招きした。部屋に戻って自慰したかったのだろう弟は困った様な、泣きそうな顔をしたけれども、逆らう事なく僕の隣に寝転んだので、彼を抱き枕にして僕は眠った。寝入り端に聞こえた子猫の鳴き声の様な声には、気が付かないふりをしてあげた。