ごっこ遊び

 ギシ、と軋む寝台の音がいやに生々しくて、スフールは薄暗い部屋に浮かび上がる男の顔を赤い顰め面で見上げる。胸に置かれた両手は容赦なく体重が乗せられ、ただでさえ肺が圧迫されて息苦しいのに、ごりごりと下半身が摩れる快感が尚の事息苦しくして、思わず呻いた。
「あー、やっぱりこっちの方が好きなんだ? やっぱオナニー歴長いから?」
「う、うる、っせぇ」
 両手首を縛り上げられたスフールの下半身に腰を下ろしている濃茶の髪の男――パチカが小馬鹿にする様な表情で見下ろしながら体重を乗せた腰を前後に揺らすと痛みに似た快感がまた齎され、スフールは口を食いしばる。既に体液を漏らしているペニスは窮屈な圧迫感を喜んで享受し、更なる刺激を求めて一層膨らんだ。無意識に動かしそうになった腰を牽制するかの様にパチカはぐっと体重を下半身に落とし、スフールの動きを封じる。そんな事をされてまた呻き声が漏れたスフールの唇を、パチカが指先で気紛れに撫ぜた。
「脱がずにセックスの真似事してるだけなのにちんちんこんなでかくするとかさあ、溜めすぎだろ」
「部屋、が、同じだから、そうそう抜ける訳、ねえだろ」
「花街行けよ。こうやって大胆に跨がってくれる子たくさん居るんだしさあ」
「うっ、く、……うぅっ、うぁっ……」
 上に乗っているパチカの腰が前後に揺れる度に下着に摩れるペニスはとっくに先走りで濡れ、恐らくもうズボンまで体液が染み出しているだろう。ややもすればパチカのズボンまで汚しているかもしれない。そうなれば洗うのはどのみち自分で、踏み洗いか面倒臭ぇなどとどこか冷静な考えがスフールの脳裏にちらと過った。
 スフールが花街に行き童貞ではなくなってから、まだ日は浅い。冒険者をやっていれば収入など装備品や細々した道具に消えていくものであるから足しげく通える訳でもなく、だから自分で処理する事も多いのだが、脱童貞した癖に童貞臭が抜けないなどとスフールをからかったパチカは、「だ〜い好きなおれとセックスごっこしてみたら童貞臭消えるかな?」などとのたまい、抵抗出来ない様に両手首を縛ったスフールを押し倒した。勿論パチカはスフールに勃起しないし、欲情もしない。からかって遊ぶだけであるから、お互い服は着たままだし下着だって脱いでいない。挿入の真似事をして、スフールで遊んでいるのだ。スフールのペニスの固さを尻肉で感じたパチカは赤い舌でちろりと自分の唇を舐めた。
「おれに挿れるの想像して勃った?」
「……うるせぇ」
「坊やは擦り付ける方が好きみたいだけど挿れてるとこ想像しやすい様にしてやろうかなー。
 やっさしいなー、おれ」
「どの口が抜かし……っあ、あっ、よせ、やめ……っ!」
 楽しんでいるパチカのその顔は明らかにスフールを見下しており、手首を縛られているスフールは抵抗らしい抵抗が何一つ出来ず、股間に乗っていた尻が浮いて軽くなったかと思えば膨らんだペニス目掛けて下ろされ、それを小刻みに繰り返されれば、スフールも無様に喘ぐしか出来ない。痛いくらいに硬く勃起したペニスは娼婦に挿れている時の感触を思い出し、女と男の内部は違うだろうとは分かっているのだが、上に乗って動いているパチカがうっすらと汗をかいているものだから彼に挿入している錯覚に見舞われてしまった。
「ちんちんに集中しろよ、折角おれがお前の上に乗っかってやってんのに」
「やめ、ろ、よせ、あ、あんまり、したら、」
「早漏だなあ、しょうがないよなー。何たっておれの事だーいすきだもんなあ」
「くそ……っ、あ、あっ、あっ……!」
 完全に遊んでいるパチカはスフールが動けない様に顔をぐっと押さえつけて鼻先が触れ合いそうな距離まで顔を近付け、目を覗き込む。動いて暑いのだろう、その鼻先から一雫の汗が自分の顔に落ち、スフールは呆気無く精を吐き出した。下着に広がる湿り気が嫌でも感じられ、荒い息を吐きながら上に乗るパチカを睨み上げれば、彼は心底馬鹿にした様なすかした顔でうっすらと笑っていた。
「新しいおかず作ってやったんだ、感謝しろな?」
「……ほんっと……どの口が抜かしやがんだ」
 喉の奥で笑うパチカの目は、相変わらず冷たい。未だに退く気配が無い下半身の重みにちくしょうと毒づいたスフールは、射精したばかりだというのに一向に収まりそうにない自分の性欲に苦々しい溜息しか出ず、パチカはそんなスフールの腹を服の上から指先でなぞった。呼吸で上下する腹をなぞった指先は、寸分違わず真一文字に刻まれた傷跡を辿っていた。