ぼくのせんせい

「もう一回」
「ちょ、ちょっと休ませてくれないか」
「これしきで音を上げてどうするんですか、勃たせてくださいよ」
 いつもの診察室でいつもの様に抱いてくれた先生は、倒れ込んで荒い息をしながら休憩を所望したけれども、若い僕は首を横に振った。これしきで、と僕は言ったけど、既に精を三回も吐いた先生はさすがにもうくたくたで、冒険者業を経験して同じ年頃の人に比べて体力はあると言ってもこれ以上はきついらしい。恨みがましく僕を見た先生は、苦い顔で額に張り付いた髪を払いながら空いた手で白衣のポケットの中に入っているスキンを取り出した。
 ペリドットが出産して僕がモリオンを連れて水晶宮の都に戻った後、先生が見ている夢と僕が見ている夢は毎月五が付く日は同じであるらしい事が発覚し、僕達は夢の中の逢瀬を繰り返している。現実の世界ではこんな関係になろうと思った事なんてないのに、夢の中ではお互いの妻への後ろめたさに目を背けて浅ましくねだってしまえる程度にタルシスは遠い。
「体力の鬼め……」
「何か言いました?」
「何も言ってないよ」
 よろめいて上体を起こしながらも本当に小声で呟いた先生の恨み言は僕には聞こえていて、先生は無表情を装って手で自分の腰を軽く叩きつつ僕の聞き返しに首を横に振った。元々体力がそんなにある方ではない先生は、へそを曲げさせない方が無難だ。そうじゃないと続きをしてもらえないし、僕もそれは嫌だ。お互い色々と忙しくて久しぶりに会えた今日はうんと抱いてもらおうと思っていたから、先生のぼやきには気が付かないふりをしてあげた。僕はセラフィさんじゃないのでこうでもしないと先生は多分頑張ってくれないから。
 一応もう一回は付き合ってくれるらしい先生は、それでもやっぱり疲れているみたいなので寝転がってもらい、僕はスキンを受け取った。夢なので別に着ける必要なんてないんだけど、後ろめたさが具現化するのか逢瀬の時はいつもポケットか内ポケットに入っているそうだ。先程まで使用していたスキンが外されたペニスはくたりとしていて、先端を指先で抓んで鈴口に軽く口付けると先生の腹筋が少し震えた。
 三回も射精したせいか先生のペニスは事を始めた直後に比べると勃ちにくくて、だけど歯を立てない様に慎重に舌を使って愛撫していると少しずつ元気を取り戻していった。一旦隠れた亀頭も根本の皮を下に引っ張ると濃いピンク色の顔を出したから子供の頭を撫でる様に舌で撫でると先生の吐息が頭上から降ってきて、普段はすました態度のこの人もこういう時は相応の顔を見せるし息遣いを聞かせてくれるので何となく僕は口元を緩めてしまった。
 そろそろ良いかな、と判断し、中身まで破らない様にスキンの包みを破って空気が入らない様に起立したペニスに嵌める。妻帯者になったと言っても僕の体質やモリオンの体の事もあって夫婦の営みが出来ないので未だに童貞の僕は、自分のペニスに着けた事は無いのに他人の、と言うか先生のペニスに着けるのは上手くなってしまった。その事について何とも言えない気持ちになるけれども、体の奥の熱が膨らんできてそんな事はどうでも良くなった僕は先生を見上げた。
「上手く出来たから、褒美をください」
「やれやれ、そういうねだり方をする様になって」
「誰かさんの躾の賜物ですね?」
「誰だろうな、その誰かさんとやらは」
 スキンを着けたペニスに唾液を垂らして満遍なく塗りつけた僕の顎を指の腹で撫でながら苦笑した先生は、軽くキスしてから僕にうつ伏せになる様に言った。後ろからされるのは丸見えになるので恥ずかしいんだけど、顔は見られなくて済むので素直に従って腰を上げようとしたら、そのままで良いと言われた。
「さっきまでので足腰に随分と負担が掛かっていてね。ゆっくりさせてもらう」
「ゆっくり?」
「そう、ゆっくり」
 言われた意味がいまいち分からなくて聞き返した僕は、だけど尻の肉を左右に拡げられて少しだけ体を強張らせてしまった。外気に触れたそこはさっきまで先生を受け入れていたから慣らす必要もなくて、先端が襞に当てられたかと思うとぐにゅると内部の肉を割って異物が入ってきた。
「あっ、あっ、……うぅんっ」
 ペニスの侵入速度が普段より遅くて、焦れったい。だけど今動けばきっと咎められてしまうだろうから、我慢して先生が根本まで埋めてくれるのを待った。今日の一回目の時みたいに早く奥まで来てほしいし突いてほしい。僕は無意識の内に犬が甘える様な鳴き声を漏らしていた。
「ふ……ぁっ?! あっ、め、捲れ……っひ、ぃ、」
 じわじわと侵入してきたペニスがやっと奥まで届いたかと思うと、同じ速度で今度は出ていこうとしていて、内壁の肉が捲れてしまうのではないかと錯覚した僕の口から無様な声が出る。ピストンが遅い分、ペニスが前立腺を擦る時間も長くて、快感に比例して溜まる静電気が髪から放電していく。背中にかかる先生の息が熱くて擽ったくて、余計に帯電してしまっているというのに、項に唇を寄せられて不意を突かれた放電は先生にくぐもった声を出させた。痛かったらしい。
「ゆっくりも気持ち良いだろう?」
「う、うぅ、はい、あの……っああぁ、く、ろさぃと、せん、せい、」
「何だね」
「あの……ぼ、僕、あの、……き、キス、好き、なの、ご、ご存知ですか」
「奇遇だな、私も好きだ」
「ふぁ、ん……」
 項ではなくて唇にその口を寄せてほしくて体を捻って尋ねると、先生は僕の素直ではない要求にちょっとだけ笑って口付けてくれた。こういう時、先生は優しい。体勢は苦しかったけどもっとして欲しくて浮いてしまった上体に先生の手が伸び、勃ち上がった乳首を抓まれてまた放電した。
 口の中が感じる先生は緩やかに出し入れしていたペニスをちょっとだけ大きくしたし、さっきより動きが速くなっていて、僕は少し嬉しくなる。夢だけでもこの人に僕の中を埋められるのは好きだ。深い所、奥を先端で刺激してほしくて腰を押し付けたら心得たかの様に根本まで埋めたペニスで円を描かれ、背中に寒気に似た快感が薄く広がって僕は体を縮こまらせてしまった。
「そんなに、締め付けられたら、イってしまいそうだな」
「ま、って、せんせぇ、まだ、我慢して、くださ、い、僕、まだ、」
「我慢、するから、君は動かないでくれ」
「だ、って」
「動かずいい子にしていたら、最後に思い切り、突いてあげる、から。我慢、出来るね?」
「ぁ、う、あぁ、はい、はい……っ」
 後ろから耳元で甘美な誘惑を囁かれ、僕は夢中で頷く。先生が容赦なく最奥まで突いてくれるのを待つ為、動きたい欲を必死に堪えてスローモーなピストンに悶えた。背中に落ちてくる先生の汗が余計に僕の放電を促し、圧迫された自分のペニスから体液が漏れていくのを感じ、耳にかかる先生の喘ぎが混ざった吐息が僕を追い上げていく。
「ひ、あっ?! あっ、あっ、せん、せぇっ、だ、だめ、出る、イくっ……!!」
 僕の限界を察知したのか、先生がいきなり僕の腰を掴んで持ち上げたかと思うと勢いをつけて奥まで何度も突いてくれて、それを待ち望んでいた僕は呆気無く達してしまった。内部が収縮して締め付けすぎてしまったから先生も不明瞭な呻き声を上げて射精したらしく、スキン越しにペニスが脈打ったのが分かった。先生が四回も出したのは初めてじゃないだろうか。僕が付き合わせたんだけど。
「……これくらいで、勘弁して、もらえるかね?」
「はぁ、はい、有難うございました……」
 本当に疲れたのだろう、再び診察台に沈んだ僕の上に折り重なる様に倒れ込んだ先生の荒い息遣いの問いに、僕も上擦った声で答える。そうすると先生はどこかほっとした様に僕の首元に顔を埋めて、暫くそのまま動かなかった。こうやって動かずに僕の上に体を乗せている時だけ、この人は「僕だけの先生」になる。そんな事を思うと面映ゆくて、僕も暫く動かず先生と顔を合わせない様にした。