あおいさん宅のギルド「にゃんにゃん(娘々)」をひろみが書くとこうなる

ギルド「にゃんにゃん」構成員
探索部隊・さとみ(聡実、♀):フォートレス♂1、えりか(恵凛香、♀):ナイトシーカー♂2、ともえ(巴、♀):インペリアル♂2
留守番部隊・みか(美華、♀):メディック♂1、みどり(♀):メディック♂2、ローゲル(たまに巴と交代する)



 普段履いている靴ではなく、素足にサンダルをつっかけて宿の玄関の軒下に出てきた美華は、ワイシャツの胸ポケットにねじ込んでいる小箱から煙草を一本取り出し、マッチを擦る。セフリムの宿は火事対策として原則禁煙を掲げており、喫煙者は外で吸うルールが設けられているため、彼女は朝の一服を毎朝ここでふかす。欠伸を噛み殺しながら吸った一口目はすっとした香りが鼻に抜け、そう言えばミント草を少し配合したんだったと美華は煙草を挟んでいない指で無精髭の感触を楽しんだ。
 タルシスは冒険者が数多く在籍し、このセフリムの宿は冒険者達の定宿になっている。美華も定宿にしている一人だ。と言っても、彼女は探索には出ず専らタルシスで待機し、請われれば傷病人の面倒を見る。大怪我をして戻ってきたよそのギルドの冒険者を手当てする事もある。ギルド主はそれを許しており、ある意味楽をさせてもらっている。美華の仕事はギルド主が探索に出ている間、間借りしている部屋の荷物の盗難を防止する事と、探索から帰ってきたギルド主達の手当てをする事だった。美華だけではない、同期の医師であるみどりも同じギルド主に誘われ同様の仕事を請け負っている。
 メディックが居てくれた方が何となく安心だから、と誘ってくれたギルド主の聡実は、しかし美華もみどりも探索に同行させた事が一度も無い。元々斡旋されてタルシスの病院に就職していた美華とみどりであるから武器を扱える訳でもなく、聡実の「二人はタルシスで留守番してて」という言葉は正直有難かった。しかし何故わざわざギルドに誘ったのかは謎だ。
「あー、また煙草吸ってる」
 変な子よね、と思いながら煙を上空に吹いていた美華は、首に掛けたタオルで顔の汗を拭きながら宿に戻ってきた聡実に軽く手を挙げて朝の挨拶をする。聡実は余程の事が無い限り朝のロードワークを欠かさず、それが城塞騎士である彼女の並外れた体力を形成している一因となっている。フィットする素材で作られた黒いインナーに浮き上がる体は程よい筋肉を浮かび上がらせ、健康的な肉体だと美華に再認識させた。
「お嬢ちゃんには早い味よね」
 煙草は体に悪い、と聡実は暗に言いたかったのだろうと解釈した美華は、それでも煙草は気分転換や精神安定剤代わりにしているので止めるつもりもなく、聡実に薄く笑う。所謂薬物と呼ばれる葉は入れていないが、苦味が強い葉を調合して巻いているので、自分より年若い聡実がこの味を好むとは思えなかったからだ。そんな美華に普段通りの歩幅で歩み寄った聡実は、流れる様な動作で火が点いたままの煙草を摘まみ取ると、一口深く吸って横を向き、ぽっ、ぽっ、と音を出しながら煙を輪っか状にして出した。呆気にとられたのは、美華だ。
「煙草は肺に悪いしね、運動してるし」
 目を丸くした美華の口にそっと煙草を返し、からりと笑った聡実は美華の胸の辺りを指先で突きながら煙草を嗜まない理由を簡素に述べた。彼女は城塞騎士ではあるが踊り子の業も身に着けているので、気管支や肺にダメージが来る煙草は吸えないのではなく吸わないだけらしい。胸を突いた指で美華の顎の無精髭を擦り、そろそろ剃った方が良いんじゃない、と言った聡実は、宿の中へと消えていった。共に探索に出ている恵凛香を起こすため、食堂にエスプレッソを買いに行ったのだろう。低血圧で寝起きの機嫌がすこぶる悪い恵凛香に、聡実はロードワークから戻るとエスプレッソを貰って持って行くのだ。
「……参ったわね」
 煙草を取った時も、戻す時も、聡実は美華に煙草の灰が掛からない様に注意を払っていた。煙を吐く時も、美華が風下に居ない事をさり気なく確認してから吐いていた。髭を擦った時に至っては、以前髭剃りに失敗して剃刀で怪我をした所を絶妙に避けてくれた。一事が万事、そういう女なのだ。聡実は。

「あれは人誑しだわ〜、天然の」

 その苦笑いは煙草の苦味に由来したものでは決してなく。美華は聡実が擦った顎を同じ様に擦りながら、最後の一口を深く吸った煙草を地面に放り、サンダルで踏み付けて完全に火を消した。